【小説・ミステリー】『目を見て話せない』―コミュ障の名探偵
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『目を見て話せない』似鳥鶏 / KADOKAWA
⇧2019/10/31発売
＜コミュ障の名探偵＞
ミステリーにおける探偵の多くは、大勢の人の前で推理を開陳することに抵抗がありません。
名探偵コナンのように、自分の推理を話したくてウズウズしている人物ばかりです。
あるいは探偵が面倒くさがりだったりしても、探偵の助手（相棒）的ポジションの人物が関係者に聞き込みをして情報収集してきてくれたり、探偵が推理を披露する場を整えてくれたりします。
つまり捜査や推理は、読者が読みやすいようにスムーズに進められます。
一方、この小説では捜査がテンポよく進められません。
主人公（探偵役）がコミュ障、つまり口下手で重度の人見知りだからです。
彼は見知らぬ他人と話したくないので、事件の関係者に聞き込みが出来ません。
変な目で見られないか心配で、推理を口にすることに抵抗があります。
正義感はあるけれど優柔不断なため、真相が分かってもどうやって皆にそれを伝えるかで悩むことになります。
「聞き込みも推理の披露も怖くて出来ない探偵」という設定は、書く側にとっては非常にハードルが高いです。
状況証拠だけで全てを見通す必要があるからです。
友達、つまり助手的な人物がいつも側にいないので、推理を披露するお膳立てを全部一人でしなければなりません。
これは人見知りが探偵役を務める大変さ・面倒くささを楽しむ小説です。
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＜あらすじ＞
主人公は千葉の房総大学の新入生・藤村京。
彼はコミュ障、つまり口下手で重度の人見知りです。
とはいえ彼は人嫌いなのではなく、友達も欲しいと思っています。
しかし周りに変な目で見られないよう心配するあまり、消極的な発言と行動になってしまい、結果として友達がいません。
入学して間もなく、学科ごとに新入生たちが教室に集められ、学生生活のガイダンスが行われました。
ガイダンスの最後には、学生たちが一人ずつ自己紹介をすることになりました。
前の席に座っていた者から順番に、自己紹介が進んでいきます。
皆それぞれに自分をアピールしており、話がウケている人もいました。
面白いことが言えない藤村は、自己紹介することに恐怖します。
なんとか回避する方法を考えている内に彼の番が回ってきてしまい、結局失敗に終わりました。
彼の後ろの席にはまだ6人の生徒が残っていましたが、藤村は失敗の恥ずかしさから後ろを振り向くことができませんでした。
ガイダンスが終わり、学生たちは自己紹介で気になった者同士、SNSのIDを聞き合ったりして友達を作り、各々教室から退出していきました。
ところが藤村は、誰からも話しかけてもらえませんでした。
周囲に「アイツは一人ぼっちだ」と思われないように、彼は急いで退出することはせず、寝ているふりをしてその場をやり過ごそうとします。
いつしか彼は本当に寝てしまい、気が付いたときは1時間経過していました。
教室にはもう誰もいませんでしたが、藤村の後ろの席には高級傘が置いてありました。
外は朝から続く雪が降っていて、まだ傘が必要な状況です。
だから持ち主は、自分が傘を教室に忘れたことをすぐに思い出すはずです。
安物のビニール傘ではないので、取りに戻ってくると思われます。
ところがガイダンスの解散から1時間が経過しているのに、まだ傘は置いたままです。
傘の持ち主が戻って来ないのは一体何故なのか。
皆の自己紹介を思い出しながら、藤村は持ち主を推理します。
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＜まとめ＞
本格ミステリーでもあり、人見知りの葛藤がこれでもかと描かれた青春ストーリーでもあります。
殺人事件や血生臭いことは起こりません。
普通の大学生活の中で起こる謎を解いていく「日常系ミステリー」です。
「推理力はあるのに人と話すのが超苦手な探偵」というのは、これまでになかった設定です。
真相を見抜いた後、「どうやってそれを関係者全員に伝えるか」で悩む主人公は斬新です。
5話収録の連作短編です。
最初は友達がゼロだった主人公ですが、事件を解決していくうちに仲間が少しずつ増えていく展開も面白いです。
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