【小説】『償いの雪が降る』―余命わずかな凶悪殺人犯にインタビュー【このミステリーがすごい2020・13位】
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『償いの雪が降る』アレン・エスケンス / 訳:務台夏子 / 東京創元社
⇧2018/12/20発売。
文庫です。
『このミステリーがすごい!2020年版』海外編・第13位にランクイン。
<3人で1人の探偵役>
ミステリー作品の主人公の多くは、探偵役かその助手役です。
本当に探偵業をしている場合、刑事の場合、あるいは推理力がある素人の場合など様々です。
いずれにせよ、味方の中に誰か一人、推理力に優れた人物が用意されています。
難解な謎を鮮やかに解いてみせる過程を、読者に見せるためです。
誰でも分かるレベルの謎を解いてみたところで、読者は面白く感じません。
しかし、これから紹介する『償いの雪が降る』では、推理力に優れた人物は登場しません。
どこにでもいそうな普通の青年たちが、すごい事件の謎を解き明かします。
明確に探偵役も助手役も区分されず、3人が力を合わせた結果、自然に謎が解けるという流れです。
主役の3人は、普通の大学生の青年と同級生の女性と青年の弟(自閉症)です。
青年に特別な推理力やコネはありません。
自閉症の弟も、サヴァン症候群ではありません。
普通の人達が地道な調査で、警察でも分からなかった真相にたどり着くのです。
ストーリーの運びがあまりにも上手く、あまりにも見事な結末に読者は驚くでしょう。
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<あらすじ>
主人公のジョー・タルバート(21歳)は、苦労して貯めた学費で念願のミネソタ大学に進学しました。
彼は大学に通うために実家を飛び出し、大学の近くのアパートで一人暮らしを始めました。
大学に入ったのは、八方ふさがりの状況から脱出し、自分の人生を切り開くためでした。
ジョーは貧しい母子家庭で育ちました。
母は酒とギャンブルに溺れ、子どもを育てようという意志はまるでありません。
ジョーが大学進学のために働いて貯めたお金も、勝手に引き出して使ってしまうというクズ人間ぶりです。
また、ジョーには自閉症の弟・ジェレミーがいました。
ジェレミーは18歳ですが、7歳の知能しかありません。
彼にはいつも誰かがついていなければ、1日も生活できません。
ジョーは「このまま実家にいれば、いつまでも自分の人生を生きられない」と思い、大学進学を機に家から出たのでした。
ジョーはある日、大学の授業で「身近な年配者にインタビューして、その人物の人生の伝記を書く」という課題を与えられました。
彼には身内がおらず、母の物語など書きたくもなかったため、近くの老人ホームで話を聞こうと考えました。
彼はそこで、カール・アイヴァソンという元受刑者を紹介されました。
カールは30年前、14歳の少女(クリスタル)をレイプして殺害した上で、その遺体を物置小屋で焼却したとされる殺人犯です。
彼は終身刑を言い渡されたのですが、膵臓がんで余命数ヶ月となり、仮釈放されて老人ホームで最後の時を過ごしていたのです。
ジョーは初めは「課題をこなすための良いネタ」が見つかったくらいにしか考えていませんでした。
しかしカールが「本当はやっていない」と告白してから、徐々にカールの事件について興味を持ち始めます。
ジョーはカールの友人に話を聞いたり、カールの裁判記録を取り寄せて読み込んだりしていくうちに、警察や検察の捜査の杜撰さを知り、冤罪の可能性を疑い出しました。
他にも容疑者はいるのに、クリスタルの家の隣に住んでいたというだけでカールが犯人に仕立て上げられたようだからです。
クリスタルは殺害される当日まで、日記をつけていました。
日記の内容によると、彼女は死の数週間前から切迫した状況にあったようですが、肝心の部分が数字の暗号で書かれていました。
文脈からは暗号部分は真犯人を示す重要な箇所だと分かりますが、警察はそれを解読できなかったため無視しました。
ジョーは隣人の同級生・ライラと共に調査を続け、ジェレミーの一言がきっかけとなって暗号の解読方法にたどり着きます。
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<まとめ>
大学で出された課題のために老人ホームを訪れた青年が、そこで出会った余命わずかな元受刑者の殺人犯にインタビューを敢行します。
実は殺人は冤罪らしく、青年ジョーはカールが死ぬまでに名誉を回復させてあげようと奮闘します。
ミステリーでもあり、タイムリミット・サスペンスでもあります。
自閉症の弟ジェレミーの世話も、カールの膨大な裁判資料の調査も、本来はジョーが一人で引き受けるには荷が重く、彼が一人で背負うべきことでもありません。
しかし彼は持ち前の責任感の強さから、それらを切り捨てられません。
これに時間をとられてバイトはクビになりそうだし、酔って暴れて捕まった母の保釈金せいで学費が払えず、大学に通い続けられなくなります。
損な性格なので、読者は彼を応援せずにはいられません。
キャラクターもテーマもストーリーも全部が素晴らしく、
構成や文体やテンポすべてが上手いです。
翻訳も上手いのでしょうが、オリジナル版がすごいのでしょう。
すべてが上手く収まる、恐ろしく完成度の高い小説です。
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