【ノンフィクション】『死刑のための殺人』―死刑の根幹を揺るがす者
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『死刑のための殺人 土浦連続通り魔事件・死刑囚の記録』読売新聞水戸支局取材班 / 新潮社
⇧文庫版は2016年10月に出ました。
<死刑になりたい殺人犯>
金川真大という名の、特殊すぎる殺人犯が現れました。
純粋な死刑志願者です。
彼は20歳の頃から自分の人生に見切りをつけ、「死のう」と考え始めました。
しかし自殺は痛そうだし失敗する可能性もあるので、確実に死ぬための手段として死刑を選びました。
そして街中でナイフを振り回し、人を殺しました。
自暴自棄になって「死刑になってもいい」と思って凶悪犯罪を起こす人はこれまでもいましたが、金川は違います。
彼の中には社会への不満があったわけでもなく、人を殺してみたかったわけでもありません。
彼は「人を殺して死刑にならないならば、そもそも事件を起こさなかった」と言っています。
つまり「犯罪の結果、死刑になってもいい」のではなく、「死刑になるためだけに」人を殺したというわけです。
金川は、多くの犯罪を重ねた末に殺人に至ったような、犯罪傾向の強い人間ではありません。
初めての犯罪で2人を殺害し、7人を負傷させました。
しかも驚くほど冷静に、淡々と人を殺しています。
精神鑑定の結果、心神喪失でも心神耗弱でもなく、犯行当時からずっと責任能力はあったと診断されました。
重大事件の容疑者は面会禁止のイメージがありますが、起訴後に金川の面会禁止は解除されました。
彼は記者との面会を特に拒まなかったのです。
この本は、金川のいいようのない不気味さを解明しようと、記者たちが何度も彼と面会して取材し続けた記録です。
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<金川の半生>
金川は高校時代、弓道部に入ってマジメに活動していました。
彼を知る同級生や後輩も、彼に悪い印象を持っている人はいなかったようです。
彼は高校2年のときに『子どものための哲学対話』という本を読み、それから常識を疑うようになりました。
そして周りの人間は常識に洗脳されており、自分だけがそこから脱却できていると思い込みます。
「殺人に躊躇してしまう人は常識に洗脳されているから」という浅い理屈です。
さらに彼は、人の運命はすでに決定されているという思想に憑りつかれ、自分だけが真実に気付いていると考えるようになりました。
高校卒業後、成績が良くなかった金川は進学することを諦め、就職活動で失敗して、実家に引きこもるようになりました。
たまにアルバイトをしてみますが、それはゲームを買うための資金のためであり、目標金額に達すればまた引きこもり生活に戻りました。
金川には両親の他に弟一人と妹二人がいました。
金川は家族に関心がありませんでしたが、家族もまた彼に関心がありませんでした。
彼だけに関心がないのではなく、家族全員が家族全員に関心が薄かったのです。
上の妹は母を嫌い、何年も前から筆談だけで会話するようになったけれど、家族の誰もその理由を知ろうともしていません。
父親は育児に関心がない放任主義で、母親は誰かに問題があっても問い詰めない事なかれ主義です。
全員の関係が希薄で、バラバラで、お互いに何を考えているのか分かっていません。
とにかく誰もが深い話や接触することを極力避け、「同じ家で暮らしているだけ」という状態がずっと続いてきたようです。
砂漠のような家族関係です。
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<死刑の根幹が揺らぐ>
結局、金川は全く反省することなく死刑を執行されました。
これは逮捕されてから5年後という異例の速さです。
金川は最初から「死刑になるために人を殺した」と言っており、「裁判なんていう茶番はさっさと終わらせて、早く死刑を執行しろ」と主張し続けてきました。
これには検察も弁護士も裁判官も戸惑いました。
誰もが死ぬのを嫌がるからこそ死刑は極刑たり得るわけですが、殺人犯がそれを望んで犯罪を起こした場合は、どうすべきなのでしょうか。
「死刑は果たして罰になるのか」
「むしろ本人にとってはご褒美になるのではないか」
そういった死刑の根幹を揺るがす疑問が生じます。
金川を最も苦しめる罰は「生かし続けること」ですが、もし無期懲役にしてしまったら、仮釈放もありえることになります。
「もし仮釈放になったら、また殺人を犯して今度は確実に死刑になるように頑張る」と言う彼に、そんな危険な判決は出せません。
遺族も死刑を望んでいました。
彼を街に解き放たないためには、死刑は仕方なかったのかもしれません。
とはいえ、金川と同じような者が今後生まれてしまうリスクもあります。
つまり死刑になりたいからという動機で殺人を犯す者です。
第二の金川を生み出さないためには、日本は死刑を辞め、終身刑を採用するべきなのかもしれません。
これからの「死刑」を考えるのに役に立つ一冊です。
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