【小説・ミステリー】『希望が死んだ夜に』―女子中学生が同級生を殺害した理由
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『希望が死んだ夜に』天祢涼 / 文藝春秋
⇧2019年10月9日に文庫が発売されました。
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【小説】『希望が死んだ夜に』/ 女子中学生が同級生を殺害した理由
＜生活保護問題＞
生活保護の問題には、不正受給と同時に、保護を本当に必要としている人のもとへ届いていないという問題もあります。
状況的に理屈では保護を受けるべきだと分かっていても、恥ずかしさやプライドが邪魔をして申請手続きに踏み切れない人もいますし、
「自分の状況ではどうせ保護を受けれられない」と制度を誤解している人もいます。
また、生活保護を受けにくくさせている原因には、福祉事務所による「水際作戦」というものもあります。
保護を求めてやって来た人に対して、審査もせずに保護申請の受理を拒否することをそう呼びます。
保護申請手続き拒否の他にも、肝心の制度をちゃんと説明しなかったり、ケースワーカーが窓口の前で追い返すこともあります。
水際作戦が実行された理由は、生活保護受給者が増えたことによる財源の圧迫です。
水際作戦や自身の誤解によって生活保護を受けられていない人は、全国に大勢います。
そして彼らの子ども達もまた、その困窮した状況から逃れられずにいます。
子どもたちには、親世代とは別の苦しみがあります。
家が貧しいという理由で学校で差別やいじめを受けたり、同世代と「普通」の価値観が違うことで友達が出来なかったり、未成年だけど家計を助けるためにこっそりアルバイトをしたりと、枚挙に暇がありません。
この小説は、仕方のない理由で経済的に苦しくなったのに生活保護を受けていない親をもつ女子中学生たちが、なんとか頑張って生き抜こうとする話です。
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＜あらすじ＞
舞台は神奈川県川崎市。
女子中学生の冬野ネガ（14歳）が、夜中にクラスメートの春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕され、警察署に連行されてきました。
犯行現場は、住宅街の空き家の中です。
逮捕までの経緯は以下の通りです。
夜中に巡回をしていた交番巡査が、空き家から物音を聞いて中に飛び込んだところ、リビングで一人の少女（春日井）が首を吊っていました。
そこにいたもう一人の少女（冬野）は巡査の姿を見て逃げ出そうとしましたが、すぐに捕まりました。
そして同級生の少女と口論になってロープで首を絞めて殺害後、自殺に見せかけようと偽装工作していたと供述したのです。
神奈川県警刑事部捜査一課の真壁は、生活安全課少年係の仲田と共に、冬野の取り調べを行いました。
しかし冬野は犯行は認めても、殺害動機を言うつもりはないと黙秘を続けます。
「あんたたちにはわかんない。何がわかんないのかも、わかんない」と言って。
冬野は母子家庭で、春日井は父子家庭でした。
警察がそれぞれの親に連絡すると、冬野の母は支離滅裂な会話をした後に電話がつながらなくなり、春日井の父は卒倒して病院に搬送されてしまいました。
身内に話が聞けないので、真壁たちは冬野の学校を訪問します。
担任の三浦やクラスメート達は、冬野と春日井は全くタイプの違う生徒で、ほとんど関わりがなかったと証言しました。
つまり冬野はよく遅刻するし、授業中いつも寝てばかりで友達もいなかったのに対し、
春日井は成績優秀で周りから慕われていたということです。
冬野は母と一緒にボロアパートで暮らしていました。
母のパートだけでは生活はギリギリで、食事も満足に出来ません。
水道代節約のために毎日風呂にも入れず、洗濯も頻繁に出来ないため服が汚れており、それが原因で学校では白い目で見られています。
やがて母が精神的に弱り、働けなくなりました。
そして生活保護を申請に行っても断られてしまいます。
仕方なく冬野は大学生だと身分を詐称して、居酒屋で働くことにしました。
授業中寝てばかりなのは、深夜まで働いていて睡眠時間が足りていないからです。
居酒屋で働き出してしばらくすると、そこで春日井も働いていたことが判明します。
職場が被ったのは、冬野を追いかけてきたわけではなく偶然です。
二人は退勤後に一緒に帰るようになり、お互いの家の事情も知ることになりました。
冬野は自分だけが辛いのだと思っていたけれど、春日井も同じ貧しい生活環境にあること、その中でも身ぎれいにする工夫を怠らないこと、大学入試でフルートの特待生を目指していることなどを知って尊敬するようになります。
いつしか二人は一番の親友になり、住宅街で空き家を見つけて、そこでバイト終わりに勉強したりフルートの練習をしたりして、夢を語るようになります。
学校では二人の関係は秘密です。
冬野の家が貧しいことはバレていますが、春日井の家はお金持ちだと思われているからです。
半年後、二人のうち一人が死に、もう一人が警察に殺人容疑で逮捕されます。
深く分かり合えたはずなのに、なぜ冬野は春日井を殺したのでしょうか。
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＜まとめ＞
生活保護を受けていない親をもつ女子中学生たちが、なんとか頑張って生き抜こうとする話です。
お涙ちょうだいの感傷的な話に終始するのではなく、きちんと本格ミステリーとして描かれています。
中盤でしっかりヒントが示されているのに気付けませんでした。
貧困や生活保護の勉強にもなる作品です。
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