【小説】『カッコーの歌』―主人公の偽物が主人公【このミステリーがすごい2020・31位】
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『カッコーの歌』フランシス・ハーディング / 訳:児玉敦子 / 東京創元社
⇧2019年1月発売。
文庫版はまだありません。
『このミステリーがすごい!2020年版』海外編・第31位にランクイン。
<イギリスのファンタジー小説>
イギリスにはファンタジー小説が豊富にあります。
もちろん児童文学の中でも、ファンタジー小説は強いです。
例えば、
・『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』
・『ハリー・ポッター』シリーズ、
・『ナルニア国物語』、
・『ダレン・シャン』シリーズ、
・『不思議の国のアリス』
などがあります。
他にも世界的に有名な作品を挙げるだけでも、数えられないほど存在します。
そもそも大人向けか児童文学かという境界線が、イギリスのファンタジー小説にはあまりありません。(※日本ではけっこう明確に分かれています)
上記の例からもお分かりのように、イギリスの小説は児童文学だからといって、著者は読者である子どもたちをナメておらず、全く遠慮していないのが特徴です。
大人でも怯むほどの、容赦のない長さの物語を描いています。
この『カッコーの歌』という小説も同様です。
児童文学なのでひらがなが多く使われていますが、440ページあります。
かといって無駄な描写はありません。
起伏と広がりのある物語を描こうとすると自然とそうなった感じです。
これから紹介する『カッコーの歌』のジャンルは、ミステリー要素もあるファンタジーです。
小さな子どもの姉妹が主人公ですが、大人が読んでも十分楽しめるように書かれています。
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<あらすじ>
舞台は第一次世界大戦が終わって間もない1920年のイギリス。
主人公は11歳の少女・トリス。
ある日彼女は沼(池?)に落ちてしまいます。
救助はされたものの、しばらく昏睡状態が続き、目覚めた時は周囲にいる家族が誰なのか分かりませんでした。
しかも頭の中には「あと7日」という謎の声が聞こえてきて、何らかのカウントダウンが始まっているようです。
しばらくすると混乱していた記憶は整理され、トリスは自分には両親と妹がいることを思い出します。
しかしなぜ自分が沼に落ちたのかは思い出せません。
さらに妙なことに、目覚めてからの彼女は空腹がおさまりません。
どれだけ食べても満腹にならず、夜中になれば我慢できずに庭のリンゴの木からまだ青い実を取ったり、木から落ちた腐りかけのものすら食べてしまうレベルです。
異常な食欲を見せて食べ続けるトリスでしたが、なんと体重は減っていました。
トリスの妹・ペンはトリスのことを嫌っています。
両親が自分にかまってくれずに、いつもトリスの味方だからです。
ペンはトリスの日記帳を破いたり、嫌がらせばかりしてきます。
さらにペンは、トリスのことを偽物だと言って譲りません。
トリスには戦争で亡くなった兄・セバスチャンがいました。
両親は彼の死に囚われ続け、子どもたちが彼の部屋に入ることを禁止しています。
ところがある日トリスは、うっかり兄の部屋に入ってしまいます。
彼女はその部屋で、人間の顔をした小鳥のような生き物と出会います。
そいつは、死んだはずの兄からの手紙を、定期的に兄の部屋の机の引き出しに届けていました。
どうやら両親はそのことを知っており、子どもたちには秘密にしているようです。
ある日、仕立て屋に服を作ってもらいに行ったトリスは、そこで提供されるケーキを異常に食べてしまいます。
後日、不審に思った従業員がトリスの両親に告げ口をします。
その従業員が言うには、
トリスは人間のフリをしているただの人形であり、
その人形はある男が作り出したものであるそうです。
そして本物のトリスはその男に捕まっており、トリスが沼に落ちたときに偽物と入れ替えられたことが分かりました。
両親は「偽物を殺せば本物が帰ってくる」と言い聞かされ、偽物のトリスを捕まえようとしてきます。
それからトリスは、自分がトリスの偽物であることを自覚していき、
本物のトリスを救出するために、妹のペンとともに動き始めました。
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<偽物が主人公の物語>
何者かによって本物の子どもと偽物を入れ替えられるという話は、ミステリーやホラーで時々見かけます。
その場合は偽物が主人公になります。
この小説も同様です。
そして大抵の小説では途中から本物も登場して、主人公と並ぶくらいの活躍をするものです。
しかし、この小説は違います。
ずっと偽物が主人公であり続け、本物はほとんど顔を出しません。
しかも偽物のトリスは人形であり、その肉体が維持できるのは7日間という制限時間つきです。
誘拐された本物のトリスも不幸ですが、偽物のトリスの運命の方が過酷です。
果たして偽物トリスは、本物を救出できるのでしょうか。
最後は肉体が崩壊してしまうのでしょうか。
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