【マンガ】『テンプリズム』全12巻―王道だけど新しいファンタジー
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『テンプリズム』曽田正人・瑞木奏加 / 小学館
⇧2017年2月に完結。(全12巻)
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<王道ファンタジー>
漫画『バクマン。』でも言及されていたように、ファンタジー漫画はやり尽くされており、今から新しいものを創造するのは非常に難しいジャンルです。
王道ファンタジーならなおさらです。
王道というのは人気があるけれどパターンが似ているからです。
相当練られたものでない限り、ありふれた設定を並べただけの駄作になりがちです。
『千の顔をもつ英雄』(ジョーゼフ・キャンベル / 早川書房)にも書かれているように、物語における英雄の「型」は決まっており、面白さを大前提とした斬新さを生み出すのは大変です.。
⇧ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』をつくるときに参考にしたことで有名な本です。古今東西の英雄たちが紹介され、感動する物語の「型」とはどういうものなのかが述べられています。(上下巻あります)
大抵のファンタジー漫画の主人公は、最初はその能力に目覚めていないけれど実はすごい能力を秘めている(いずれ覚醒する)という設定です。
最初は凡庸かそれ以下の能力と容姿だけれど、やがてその「選ばれし者」の才能と自覚に目覚め、世界を救うことになります。
「選ばれし者」であるという根拠は、伝説の人物の血統(血筋)だったり王族(の末裔)だったりします。
これらは努力して身につけたものではなく、先天的に備わっているものです。
そういう生まれ持った特殊な力を持たない凡人からすれば、ズルいと思われても仕方がない境遇です。
この漫画の主人公も王子であり、覚醒していないものの強大な力を秘めていることが最初から示唆されています。(王子の側近たちがそう確信している)
では一体、どこが他のファンタジー漫画と違っているのでしょうか。
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<あらすじ>
大陸は強大な軍事力を誇る骨(グウ)の国によって、ほとんどの国が支配されようとしていました。
カラン王族の血を引くツナシは、今はアイリッカ国で側近たちと一緒に暮らしています。アイリッカ国はまだ骨の国に攻め込まれていないので平和でした。
そのため、戦うことに興味のない彼は毎日本を読んでいます。
側近たちはツナシに王子としての自覚に目覚めて欲しいと願っていますが、彼はその期待をプレッシャーに感じてしまい、逃げ回っていました。
ツナシの剣術指南役であるユイ(男)は、情報屋からアイリッカ国の隣国まで骨の国が侵攻してきたことを知ります。
いよいよ気楽に暮らしている場合ではなくなったので、ユイは謀反を起こしたフリをしてツナシの力と自覚を覚醒させようとしました。
ツナシの右目は普段は自力で外せない眼帯に覆われており、感情が極限まで高まった時に眼帯の封印が破られ、「金色の眼」が現れます。
「金色の眼」が解放された時にだけ、ツナシは王家伝来の「光の剣」を使いこなし、圧倒的な力を発揮します。
ユイの計画通り、ツナシは「金色の眼」の力を生まれて初めて解放することができました。
その直後、骨の国の機械兵部隊が空からアイリッカ国に攻めてきました。
皆が避難できるように、ツナシは独りで多数の機械兵たちを引き付けて戦います。
なんとか彼に付いてきた敵は撃退できましたが、戦いのゴタゴタにより側近たちの行方は分からなくなりました。
ユイや側近たちの遺志を継ぎ、ツナシは骨の国と戦う旅に出ます。
旅の途中で情報屋と再会し、生き延びた側近の一人・事九(こときゅう)が骨の国の軍人・ニキに追われていることを知りました。
ツナシは事九を救うため、故郷に急いで戻ります。
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<まとめ>
事九に接触したニキは彼に言います。(2巻)
「「生まれながらに持っていた力」がそんなにエラいんですか?
努力と研究で後から得てはいけないの?
持たざる者が研鑽し得るに至った力こそ尊いです」
これはツナシを逆恨みして、自分の見識の狭さに無自覚なニキが、自分の正しさを事九に押し付けるために言ったセリフの一部です。
自分や自国が正しいと盲信している傲慢さ故のセリフですが、文字だけを見ればあながち間違いでもありません。
ファンタジー作品に対するアンチテーゼにも聞こえます。
話を現実世界に移しますと、
王族や貴族などの身分制度が(名残りにせよ)まだあった時代には、血統による「選ばれし者」という考え方は大衆にも違和感なく受け入れられた感覚だったのかもしれません。
普段から小説やファンタジーの世界に触れている人ほど、この感覚を引きずっています。そういう物語が多く、慣れ親しんでいる世界だからです。
しかしこの漫画を読んで、これからの社会ではそういう設定はもう時代錯誤であり、大衆の感覚からもズレて来ているのではないかと思わされました。
先天的な血筋による力なんて、本人が努力したり苦労したりして獲得したわけでもないんだから、偉くなんてないんだということです。
これからのファンタジーには、過去の作品とは全く別のテーマが必要になってくるのではないでしょうか。(それを誰も見つけられなければ、ファンタジーというジャンルは滅びます。)
王道ファンタジーでありながら、新しい形のファンタジーを生み出そうという気概が感じられる作品です。
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