【ノンフィクション】『死に山』—事実は小説より奇妙で怖い
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『死に山:世界一不気味な遭難事故<ディアトロフ峠事件>の真相』ドニ―・アイカ― / 訳:安原和見 / 河出書房新社
⇧2018年8月発売。
テレビ番組『クレイジージャーニー』の奇界遺産でおなじみ・佐藤健寿さんがこの本を推薦されていました。
<実際にあった奇妙な事件>
「事実は小説より奇なり」という言葉があります。
ミステリー小説では奇妙な現象や事件が起こっても、必ず最後は名探偵がその謎を解明してくれるものです。
しかし現実はそうではありません。
名探偵は登場しませんし、謎が謎のまま何十年も経過して迷宮入りした事件は数多くあるでしょう。
この本で紹介される事件(遭難事故)は、その中でも最大級のミステリーです。
事件直後はそのあまりの不気味さから当局は無かったことにしようと画策しました。
それゆえに世間では陰謀論や宇宙人説まで様々な憶測が飛び交うことになります。
半世紀経った現在にようやく、謎が解明されようとしています。
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<事件の内容>
1959年2月。
冷戦時代のソ連のウラル山脈北部にあるホラチャフリ山。
-30℃の吹雪の雪山。
ウラル工科大学の登山部でも実力派で知られたチームのメンバーたち9人がそこで消息を絶ちました。
後日、捜索隊はそこで登山部チームが設営したテントを発見しましたが、その中に人間は一人もいませんでした。その後の捜索で、テントから1.5kmほど離れた地点で彼らの凄惨な遺体が発見されます。
固まって発見されたわけではなく、それぞれが別々の場所で死亡していました。
彼らは極寒の山中だというのに、ろくに服を着ていない状態でした。
雪の中にうつぶせに倒れている者もいれば、谷底で抱き合っている者もいました。
そしてほぼ全員が靴を履いていなかったのです。
遺体回収後の検死結果によれば、9人のうち6人の死因は低体温症でしたが、残りの3人は頭蓋骨折などの重い外傷によって死亡していました。
女性メンバーの一人は舌が無くなっていました。
さらに遺体の一部の衣服から異常な濃度の放射能が検出されました。
なんらかの事故なのか、他殺事件なのか。
捜査は途中で打ち切られ、当局はホラチャフリ山とその周辺への立ち入りを3年間禁止にしました。
主任捜査官の最終報告書には、登山者たちは「未知の不可抗力」によって死亡したと書かれています。何も説明していないのと同じです。
以後の科学技術の進歩にもかかわらず、50年経っても事件の原因はあいまいなままでした。
この山はもともと地元民からは「死の山」と呼ばれていました。
この事件が起きてからは、テントのあった付近を、登山チームのリーダーだったディアトロフの名前をとって、「ディアトロフ峠」と呼ばれるようになります。
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<世間の憶測と仮説>
当時の当局の動きも不審だったことから、様々な憶測が世間で飛び交うことになりました。
一番の謎は、月明かりもない真っ暗な夜の真冬の雪山の中で、「なぜ全員がまともな防寒具も身に着けないままテントから出ていったのか」です。
不思議すぎて不気味で怖いですね。
巷で言われている仮説を以下に紹介します。
1)マンシ族の襲撃
周辺に住んでいた先住民族が聖地に侵入してきた人間を殺そうとしたという説です。
実際は彼らに強いナワバリ意識はありませんし、出くわした遭難者にはいつも食事を振る舞ったりしているし、捜索にも手を貸してくれたことから犯人ではないだろうと著者は推測します。
2)雪崩
熟練者であったメンバーたちは雪崩が起きる前兆となる音を聞いたため、あわててテントから出て行ったとする説です。
山の傾斜からそこでは雪崩は起きないだろうという専門家の意見があり、万が一起きたとしても10mほどがせいぜいだろうとのこと。
3)強風
問題の峠は風が強くて危険だと注意されていました。
それに吹き飛ばされたのだという説です。
しかしそれではテントが吹き飛ばされていないことに説明がつきません。
靴は吹き飛ばされたのに帽子は残っているという状況も変です。
4)武装集団
軍や脱獄囚などに襲われたという説です。
テントが一部、人為的に刃物で切り裂かれていたことからの連想でしょう。
根拠がありません。
5)兵器実験
冷戦真っ只中のソ連では、密かに山中で秘密の兵器実験が行われていて、それを目にしてしまった登山メンバーたちは驚いて逃げたという説です。
6)機密扱いになっている
事件の謎の答えは、まだ公開されていない政府の機密文書に眠っているという説です。
ソ連時代もロシアになってからも秘密が多い国なので、そう考えたくなる気持ちも分からなくもないです。
7)エイリアン、UFO
幽霊と同じレベルであり、推理に値しません。
著者は現地に足を運ぶことで、これらの仮説を一つ一つ却下していく根拠を示していきます。
そして最後に驚くべき真相にたどり着きました。
これは誰にも分からないトリックでしょう。
「小説なんて作り物のストーリーでしょ」とか言う冷めた方には、ぜひ読んでほしい本です。
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