【小説・ミステリー】『数字を一つ思い浮かべろ』―冷静な緻密さと狂気が同居した執念のトリック
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『数字を一つ思い浮かべろ』ジョン・ヴァードン / 訳:浜野アキオ / 文藝春秋
↑表紙がカッコイイ!
『このミステリーがすごい!2019』第9位。
著者のデビュー作だそうです。
<数字を言い当てるトリック>
トランプのマジックで、数字と絵柄を当てるネタがありますね。
「この中から好きな1枚を選んで下さい」と言って、マジシャンの持っているトランプの束から、観客に任意のカードを1枚を引かせます。マジシャンはそのカードを見ないで、数字と絵柄を言い当てるやつです。
これには色んなやり方があります。
観客はタネが分からなくて不思議がることはあっても、動揺するほど焦ることはありません。それがエンターテイメントだと分かっているからです。
しかし、エンターテイメントではない日常生活の場で、意図が分からない状況で、そのトリックを仕掛けられたら動揺して怖くなるのではないでしょうか。
この小説ではまさにそんな出来事から物語は始まります。
ある男の元に、奇妙な封筒が届きます。
その中には手紙と小さな封筒が入っていました。
手紙にはこう書かれていました。
「1から1000までのうちから、数字を一つ思い浮かべろ。」
男の頭にパッと思い浮かんだ数字は「658」。
これは何かの記念日とかではなく、ランダムに選んだ数字でした。
手紙の指示に従って小さな封筒を開いた男は、そこに入っていた紙片の内容に驚愕します。紙にはこう書かれていました。
「おまえが選ぶ数字はわかっていた。658だ。」と。
これがマジックショーでの話なら、「ブラボー!」と言って拍手をしているところですが、こんな手紙が届いたら「怖っ!なにこれ!?」と誰でも動揺するでしょう。
何しろ、手紙の意図も差出人も、よく分からないのですから。
物語の始まりとしてのつかみは完璧です。
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<あらすじ>
手紙を受け取った男は、大学時代の友人であった退職刑事の主人公・ガーニーに相談することにします。男は何か後ろ暗い過去を隠しているようで、意図の分からない手紙を警察に相談することは拒みます。
やがて男は殺害されてしまいます。
殺害現場は雪原で、犯人の足跡は途中で途切れていました。雪の足跡密室です。
(ヘリコプターで現場から離れたのではないことは確認済み。)
男は首をまず銃で撃たれた後に、首を14回刺されていました。
似たような事件が、現場から300kmも離れた地域で発生しました。
どうやら連続殺人っぽいです。
犯人は、警察を挑発するかのようなメッセージを毎回現場に残していきますが、
犯行の手がかりとなる証拠(指紋、皮脂、毛髪、唾液、血液など)は一切残さない徹底した完璧主義者でした。
結局、4人の連続殺人を実行させてしまうことになりますが、最後の最後までその容疑者は全く絞りこめません。
ここまで警察を翻弄しつつも、全くシッポをつかませない犯人は中々いません。
読者は、捜査が進展しないことにヤキモキするかもしれません。
あるいは犯人の計画の緻密さと動機の不可解さ、犯人像の不透明さといった多くの謎に混乱するかもしれません。
犯行現場が離れ過ぎていて、これほど被害者たちの共通点が見えてこないのも珍しいくらいです。
実際の捜査というのは、こういう暗中模索がリアルなのかもしれませんね。
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<珍しい犯人像>
犯人の徹底的に練られた計画、細部まで気を配った緻密な犯行は、冷静でないとできません。
かといって、数字のトリックは「力技のマジック」と言っていいほど狂気的な執念によって成し遂げられたものでした。
冷静な緻密さと狂気的な執念は、普通は相反するもののような気がします。
狂気的な執念で行動する者は、どこか冷静さを欠いて失敗するものですから。
しかしこの犯人は、そのアンビバレントな性質が同居しているのです。
珍しいキャラクターです。
だからこそ成し遂げられた数字のトリックともいえます。
犯人の正体も、動機も、犯行の意図も、たしかに魅力的な謎としてストーリーを牽引しましたが、やはり「数字当てトリック」の解明が、一番面白かったです。
特殊な能力や技術がいるわけではなく、やろうと思えば誰でもできるトリックです。
なぜ今まで誰もやらなかったのでしょうか。
まさかそんなことをする奴はいないだろうという心理的な抜け穴。
面白い発想というのは、そういうものなのかもしれません。
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