【小説・ミステリー】『アンデッドガール・マーダーファルス』—怪物たちの本格ミステリー
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『アンデッドガール・マーダーファルス』青崎有吾 / 講談社
⇧2015年12月発売。
講談社タイガというレーベルから出ている文庫書き下ろしです。
(つまりハードカバー版はありません。)
現在では月刊シリウスからマンガ版も発売されています。
<特殊設定下での本格ミステリー>
この小説のジャンルは、ファンタジー寄りのミステリーです。
そして特殊な世界観設定の中での本格ミステリーです。
現実ではあり得ない設定なのに、その世界観の中で犯人やトリックが論理的に導かれるというパターンの作品です。
3月2日の記事『人間の顔は食べづらい』(白井智之)にも書きましたが、
代表例として『生ける屍の死』(山口雅也)や『七回死んだ男』(西澤保彦)などがあります。
特に西澤保彦さんの作品群はこういう特殊な設定の本格ミステリーが多く、
もはや「こういうミステリーと言ったらこの人」という代表格です。
作家は、現実の物理法則を無視してもよい代わりに、自分の作り出した設定下でのトリックに論理の穴が無いかの検証が必要になってきます。
ご都合主義の設定になってしまわないように気をつけねばなりませんし、
読者がちょっと考えただけでは分からないような謎を作る必要があります。
現実世界でのミステリーを書くよりも難しそうですね。
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<あらすじ>
舞台は1898年のフランス。
吸血鬼などの怪物が実在していることが一般人でも知っている世界観。
主人公・真打津軽は半分人間で半分鬼である特殊な体質でした。
その相方である輪堂鴉夜は不死の少女で、生首だけで生きています。
彼らは「怪物専門の探偵」を名乗り、仕事としていました。
(真の目的は、自分たちの体質を解除できる方法を探すことです。)
ある日、吸血鬼殺しの調査依頼を受けます。
吸血鬼の夫婦の妻が殺害され、夫が依頼してきた形です。
吸血鬼は生命力が強く、簡単に殺害することはできません。
殺害された吸血鬼も、胸を杭で打たれて、さらに聖水がまかれていました。
念入りな仕事ぶりに、警察はヴァンパイアハンターの仕業だと捜査の結論を下します。
本当でしょうか?
吸血鬼に十字架は効かないけれど、「川が渡れない」「銀に弱い」という設定は他の吸血鬼モノと同じです。
銀や聖水といった「吸血鬼モノ」ギミックを、本格ミステリーとつなぎ合わせた手腕は見事です。
「バカミス」(バカみたいな解決をするミステリー)になりそうな設定とのバランスの取り方が絶妙に上手いです。
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<まとめ>
文章は読みやすく、状況説明も分かりやすく、テンポも良いです。
キャラクターの設定も特徴的で、主人公コンビが特にいい味を出しています。
会話のかけ合い、ボケとツッコミが面白いです。
どの探偵も推理をしているときはペラペラとよくしゃべるものですが、普段から口の上手い探偵というのは案外少ないものです。描くのが難しいのでしょう。
(講談社タイガはライトノベル寄りのレーベルなので、キャラクターが立っていることが義務付けされているかのような感じですが、その中でも群を抜いた魅力を持っています。)
エルキュール・ポアロやモリアーティ教授など、古典的ミステリーの名探偵や敵キャラがマジメに登場してくる点もニヤリとさせられます。
次巻ではシャーロック・ホームズやルパンも登場します。
他の作品の名キャラクター達が登場して、主人公たちと絡んでくる展開は、どんな小説やマンガでもワクワクして楽しいですね。
もちろん、著者がそのキャラクター達について(口癖や仕草、価値観、思考法などを)熟知していて、それらを自然な形で描写できる技量があるということが前提ですが。
この青崎有吾という作家さんは数多くのミステリーを書かれていて、本格ミステリーの実力派です。
ミステリー好きの方なら必ずニヤリとさせられる、細かなネタが散りばめてあります。
ミステリーをあまり読まない方にも、ミステリーの入口として丁寧な構成になっています。(バトル要素も入れたりして、マンガ読者層との親和性が高い。)
どんな読者にも対応できるようにバランスが取られています。
すごい!
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