【小説・ミステリー】『湿地』—土地柄ならではのトリックと捜査法
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『湿地』アーナルデュル・インドリダソン / 訳:柳沢由実子 / 東京創元社
↑2015年出版。
10年くらい前から『THE KILLING/キリング』をスタートとして北欧ミステリーが流行し出しましたが、もう今ではブームではなく確固たる一分野としての地位を確立しましたね。いいことです。
かつてマンガの神様である手塚治虫が記者に質問されたときの回答を思い出しました。
記者:「今のマンガブームをどう思いますか?」
手塚:「ブームではないよ。すでに定着したものをブームとは呼ばない。」
カッコイイ~!
まさに昨今の北欧ミステリーもそんな印象です。
北欧ミステリーとは、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5か国発のミステリーのことです。
「イギリスも同じくらいの緯度なのでは?」と思いますが、イギリスは元々ミステリー作品が非常に多いので今更言う事ではないということでしょうか。
北欧ミステリーの特徴は、一言で表現すると「なんか暗い」です。
悪く言えば、終始どんよりしている陰鬱な雰囲気が漂っています。
良く言えば、凄惨なドラマにはうってつけの情感が溢れていて、ムードや演出効果という点では申し分なしです。
万人ウケしないかもしれませんが、ホラーサスペンス好きの方との適合率は高いでしょう。落ち込んでいるときには読まない方がいいかも。
物語の舞台はアイスランド。
人口も少なく、他国からの移民も少ない閉鎖的な環境なので、ヒトゲノムが全国民登録されていて、家系をさかのぼることができるという特殊な条件を備えた土地なんだそうです。(日本よりも鎖国的な国がまだ現代にあったとは驚きですね。)
湿地にあるアパートで、老人の死体が発見されました。侵入の形跡はなし。何者かが突発的に殺害し逃走したらしい。ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人。
この後の展開も、その土地だからこそ起きた悲劇だし、できたトリックです。
すばらしい。
アイスランド発でなきゃ成立しない作品です。
10年前に出版されて大ヒットしたスウェーデン発のミステリー『ミレニアム』(スティーグ・ラーソン / 早川書房)シリーズもそうでしたが、北欧ミステリーの特徴として、「捜査のリアリティがある」という点も挙げられると思います。
↑シリーズ5まで出ています。(2018年11月時点)
二流のミステリーでは、途中まで面白かったのに、終盤に都合よく証拠を発見したり、都合よく証言者が現れたりして興ざめしてしまいます。
「何それ?その展開は幸運すぎでしょ」という怒りが涌いてきます。
北欧ミステリーではそんなことありません。
地道な捜査から些細な手がかりに気がついて、謎が解明されます。
実際の警察もこういう地道な捜査をしているんだよなと想像させられます。
名探偵がいつも登場するわけではないのです。
今気づいたのですが、
「捜査にリアリティがある=名探偵が現れない」
ということなんですね。
名探偵が出てくるミステリーも当然面白いわけで・・・あれ?
うん、どっちも好きですね。僕は。
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