【小説・SF】『Ank:』佐藤究—暴力の感染メカニズム
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『Ank: a mirroring ape』佐藤究 / 講談社
⇧2017年8月発売。文庫版は未発売です。
カテゴリーは「SF」にしましたが、「ミステリー」としても読めます。
それぞれの要素が半々くらいの絶妙なブレンド具合です。
著者が『QJKJQ』で江戸川乱歩賞を受賞したことから、書店ではミステリーの棚に分類されていると思われます。お探しの方はお気をつけ下さい。
<暴力事件>
凄惨な殺傷事件や暴行事件がニュースで流れるたびに、
「最近の若者は凶悪化している。あるいは暴力的になっている」
なんて言うトンチンカンな言説が口にされたりします。
本当は、若者よりも中年や老人が引き起こす事件の方が多いし、
昔の方が今よりも殺人や暴行事件の数は多かったという統計があります。
むしろ若者が起こす、いわゆる凶悪事件は年々減少傾向にあります。
スティーブン・ピンカーは『暴力の人類史』で
はるか昔から、人間社会における暴力が減ってきていることを示しています。
つまり世界は徐々に平和になってきているということです。
もちろんまだまだ凄惨な事件は世界各地で起きています。
人間が肉体か脳を失わない限り、暴力がゼロになることは無いでしょう。
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<暴力は何によって引き起こされたのか>
暴力の衝動は何によって引き起こされるのでしょうか?
怒り、憎しみ、恐怖(自己防衛)、支配欲?
人間はプロのスポーツ選手でさえ、自分の肉体をセーブしながら使っています。
筋力を100%発揮すると、自分の肉体が壊れてしまうと脳が分かっているからです。
『幽遊白書』の戸愚呂(弟)のように。
衝動的な殺意にかられた人間ですら、肉体をセーブしています。
自分の肉体まで破壊してしまわないように。
この小説では、全力100%の暴力が一般市民の間に広がっていきます。
老若男女問わず、誰もが目に止まった他人に向けて突進していきます。
道具など使わず自分の肉体だけを武器に、ひたすら他者を殺そうとします。
自分の肉体が壊れることを構わず、相討ち覚悟で誰もが殴り掛かるので、
物語の舞台である京都市内は地獄絵図と化します。
暴力衝動に突き動かされた人々は、その瞬間の意識も記憶もなくなります。
ウイルスや細菌感染によるパンデミックが原因かと初めは疑われましたが、
いかなる種類の病原体も検出されません。
化学物質が散布されたり、テロが起きたわけでもありません。
ではそれ以外に、一体何が原因になりうるのでしょうか?
この冒頭の設定で、つかみはバッチリです。
読者は本当の原因を知りたくて、先を読みたくなってしまいます。
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<大型類人猿にあって、ヒトには無い遺伝子配列>
原因を細かく説明しようとすると、
ストーリーの山場というかストーリーの根幹というか、
完全にネタバレになってしまうので難しいのですが・・・。
暴力衝動を引き起こすのは、遺伝子―DNAの構造が関わっていたのです。
ヒトゲノムプロジェクトによって、ある程度は解析されたヒトのDNAの塩基配列ですが、ある特定の領域については特に意味をなさない配列が存在します。
「サテライト配列」と呼ばれるものです。
これは大型類人猿(チンパンジーなど)にはあるけれど、ヒトには無いそうです。
進化の過程で無くなっていったともいえません。
なぜなら系統樹的に大型類人猿以前の猿たちにも、その配列は見られないからです。
もう一つのポイントは、「自己鏡像認識」です。
人間は鏡を見ても左右が分かりますし、鏡に映っているのが自分だと認識できます。
そして大型類人猿は、鏡に映ったのが自分だと認識できるかどうかギリギリのところにいます。( 猿や犬や鳥は鏡を見ても、それが自分の姿だと認識できないそうです。)
鏡を見てその姿が自分だと認識できるとは、どういうことなのでしょうか。
鏡を見る ➡ 自分の姿だと認識する ➡ でも本当の自分が鏡の向こうにいるわけではない ➡ でも鏡に映っているのは自分である ➡ でも本当の自分じゃない ➡ でも自分である ➡ でも自分じゃない ➡・・・
という無限ループに耐えられる認識能力が必要だということです。
これが「自己鏡像認識」です。
普段から我々はそんな高度なことをやっていたのかとちょっと感動しました。
この「サテライト配列」と「自己鏡像認識」が、この物語での暴力感染を引き起こしたキーワードです。
小説はスケールも大きく、生物学的雑学や仮説を知ることができて面白いです。
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