【小説・文学】『黄金列車』―ユダヤ人の没収財産を移送せよ
【広告】
紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『黄金列車』佐藤亜紀 / KADOKAWA
⇧2019/10/31発売。
バードカバーです。
<終戦間近のハンガリー>
ハンガリーという国をご存知でしょうか。
ドイツの南に隣接している国がオーストリアで、オーストリアの東に隣接しているのがハンガリーです。
⇩ハンガリーの位置(赤い部分)
第二次世界大戦では、ハンガリーはドイツと協定を結び、枢軸国側として戦いました。
終戦間際の1944年、ドイツの支援を受けた矢十字党のクーデターが起こり、成功を収めました。
そして矢十字党はドイツの政策に協力しました。
つまりユダヤ人の迫害です。
1944年3月以降のハンガリー政府は、ユダヤ人の公共交通機関利用を禁止し、車を差し押さえ、星の徽章を義務付け、ゲットーに押し込み、貨車に乗せてアウシュヴィッツへの移送を始めました。
その際、ユダヤ人が所持していた貴金属や貴重品は供出させられ、空いた家からは家財道具が運び出され、食料品は地元住人に盗られました。
ユダヤ人の財産を徹底的に略奪したわけです。
ユダヤ人の没収財産のうち価値の高いもの(貴金属、美術品等)は、戦火を逃れるため安全な場所に移送させられました。
その移送に使われたのが「黄金列車」です。
この小説は、その黄金列車が舞台です。
没収財産の移送任務を与えられたユダヤ資産管理委員会の男達が、様々なトラブルに遭いながら安全な場所を目指します。
【広告】
<あらすじ>
1944年12月。
ハンガリーの首都・ブダペスト(作中ではブダペシュトと表記)。
ハンガリーの矢十字党はドイツと協調していたので、ドイツと対立していたソ連は、ハンガリーにも侵攻してきました。
そして間もなく、ソ連軍はブダペストに到達しようとしていました。
ユダヤ資産管理委員会の現場担当のエレメル・バログは、没収財産をソ連軍に奪われないよう、移送する任務を与えられました。
移送に使う黄金列車には、貴重品がスペースの限界まで急いで積み込まれました。
ソ連軍がすぐそこまで迫ってきているので、正確な分類や物品リストの作成は間に合っていません。
バタバタした状況の中、列車はブダペストを出発します。
黄金列車にはバログの上司たちや、権力者の家族たちや、銃を持った列車警備隊が乗っています。
戦争が激化して、ハンガリー国民は食糧の確保に苦労していましたが、列車の中には最低限の食糧が積み込まれていたので、乗員たちは誰も飢えずに済んでいます。
しかし行く先々の停車駅や街には、飢えた人たちがたくさんいました。
一旦停止した列車の周りには、街の住人や戦争難民たちが群がってきました。
バログたちの食糧もギリギリなので、彼らを無視して次の駅に向かいます。
停車駅にいる者の中には、黄金列車のウワサを聞きつけた人も少数いました。
彼らは列車の詳細を知っているわけではないので、大量の財宝や食糧が積まれているのだと想像を膨らませています。
実際はそんなことはないのですが、お金や物資に乏しい生活をしている者たちは、なんでもいいから盗もうと近づいてきました。
そうこうしている間に、バログの上司も列車内の物品を横領し、転売してお金を稼ぐようになりました。
上司なのでバログは目立った批判ができません。
別の乗員はバログに、こんな忠告をしてきました。
もはや協定国であるドイツの敗色は濃厚なので、戦争後に裁判にでもなれば、横領した者は犯罪者扱いされる可能性があります。
自分の身を守るためには、悪事に加担していないという証明が必要です。
つまり今大事なのは、列車を守って没収財産を盗まれないようにすることだと。
果たしてバログは、無事に終戦を迎えられるのでしょうか。
【広告】
<まとめ>
終戦間際のハンガリーから、ユダヤ人の没収財産を安全な場所に移送しようとする話です。
移送には「黄金列車」が使われました。
ユダヤ人から略奪した貴重品を大事に抱えて、ついでに自分も戦火から逃れようとする者たちの姿は情けなくて愚かです。
ついでに物品を横領して、私腹を肥やそうとする者たちは下劣の極みです。
主人公のバログは積極的に悪事に走ろうとはしませんが、生き延びることに必死なので、目の前の悲劇を見て見ないフリをしてやり過ごします。
戦時でなくともクズみたいな人間は世の中にいますが、戦時にはクズに加担せざるを得ない状況が生まれてしまうのかもしれません。
骨太の戦争文学です。
⇦クリックするとAmazonに飛べます
⇩⇩⇩⇩⇩
⇧⇧⇧⇧⇧
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△