【小説・ミステリー】『それ以上でも、それ以下でもない』―ナチス占領下のフランスでの殺人事件
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『それ以上でも、それ以下でもない』折輝真透 / 早川書房
⇧2019/11/20発売
<アガサ・クリスティー賞>
アガサ・クリスティー賞という文学賞をご存知でしょうか。
早川書房が主催する、2010年に創設された長編小説の公募新人賞です。
「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティーの名前の賞だけあって、応募条件のジャンルは「ミステリー」です。
「ミステリー」とはいっても、本格ミステリーでだけではなく、冒険小説、スパイ小説、サスペンスなど広義のミステリーなら何でもアリです。
アガサ・クリスティー賞を受賞した作品で有名なのは、
第1回目の『黒猫の遊歩あるいは美学講義』でしょう。
◆『黒猫の遊歩あるいは美学講義』
著:森晶麿 / 文庫 / 2013年9月発売
現在は続編のシリーズが出ています。
アガサ・クリスティー賞は、毎年1回受賞作が発表されます。
今回は第9回の大賞受賞作品である『それ以上でも、それ以下でもない』を紹介します。
ちなみに、第9回だけはもう一つ大賞が出ました。
『月の落とし子』(著:穂波了)です。
⇧こちらは後日紹介したいと思います。
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<あらすじ>
1944年4月。
パリ陥落後、ナチス・ドイツに占領されたフランスは、休戦協定の結果、北部と南部に分割されました。
そして北部はナチス占領地域となり、南部は自由地域となりました。
自由とはいえ、南部を統治するヴィシー政権はナチスに協力的だったので、それに対抗するレジスタンスがフランス各地で活動を続けていました。
ナチスの武装親衛隊・SSは、姿を現さないレジスタンスを憎悪していました。
レジスタンスをあぶり出すために、SSは罪なきフランス国民を虐殺して回りました。
SSの暴力は、フランス中南部にも広がってきました。
この物語の舞台は、そんな戦火が迫る小さな村:サン・トルワンです。
主人公のステファン神父は、ある夜、彼の身の回りの世話をしてくれているマリアンヌに呼び出されました。
マリアンヌは教会の側の墓地を管理するケシシュ家の一人娘です。
ケシシュ家の地下室には、レジスタンスの男・モーリスが匿われていました。
それは村の住人すべてが知っていることでしたが、皆ナチスを憎んでいたので、モーリスを密告しようとする者など誰もいません。
マリアンヌが神父を呼んだのは、そのモーリスが地下室で殺害されていたからです。
モーリスは頭にシャベルが刺さった状態で死んでいました。
明らかに他殺です。
地下室には誰でも出入りすることが出来たため、容疑者は村人全員です。
マリアンヌはモーリスと不貞を働いていたカトリーヌを疑いますが、ステファン神父は犯人捜しをすることも、警察に通報することもやめるよう言いました。
フランス解放のために闘うレジスタンスが殺害されたと村に知れ渡れば、住民たちは疑心暗鬼に陥ると予想されたからです。
村にはフランス国内はもちろん、フランス以外から逃げて来た外国人も大勢増えていました。つまり誰が「隠れナチス」(ナチス支持派)か分からない状況です。
現在、食糧の配給は途絶えがちで、村は困窮しています。
そこでレジスタンスが殺害されたとなれば、さらなる混乱を呼ぶことになります。
ステファン神父は事件の隠蔽を図るため、すでにSSに全滅させられた隣の村にモーリスの遺体を運ぶことにしました。
隣の村には、虐殺を受けた村人たちの遺体があちこちに転がっていました。
ステファン神父はモーリスの遺体を井戸の中に落とし、その上からさらに他の遺体を投げ入れて、外見からは全く分からないよう工作しました。
その後、とうとう村にSSがやって来ました。
レジスタンスを匿っているだろうと詰め寄られますが、村人たちは誰もモーリスを売ったりしません。
そこでSSのベルトラム中佐は、誰かが白状するまで村人を一人ずつ殺害していくことにしました。
果たして、サン・トルワンの村はどうなってしまうのでしょうか。
そしてモーリスを殺害した犯人は誰で、その動機は何なのでしょうか。
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<まとめ>
ナチス占領下のフランスの小さな村での殺人事件から始まる物語です。
殺害「方法」はすでに判明しており、「誰が」「なぜ」殺したかが謎になっています。
戦時下なので、さらなる混乱を避けるために警察に通報しないという点が鍵です。
ミステリーを読み慣れている人ほど騙されるはずです。
謎のために物語が作られているのではなく、物語のパーツの一つとして謎があります。
つまり単にミステリーというだけでなく、戦争文学的な側面も豊かに描かれています。
最後まで物語がどういう方向に向かうのか予測できません。
全体を通して緊張感のある小説です。
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