【小説・ミステリー】『ベーシックインカム』―3つの鉄壁セキュリティの突破法
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『ベーシックインカム』井上真偽 / 集英社
⇧2019年10月4日発売。
文庫版はまだありません。
<近未来の技術を題材にした小説>
5話収録の短編集で、全部SFミステリーです。
タイトルは掲載順に『言の葉の子ら』『存在しないゼロ』『もう一度、君と』『目に見えない愛情』となっています。
それぞれが近未来に実現可能とされる科学技術(AI、遺伝子工学、VR、人間強化(エンハンスメント))を題材にしています。
それが定着した社会と、そこで生きる人々の価値観が現在からどう変わったのかが描かれています。
一見、未来技術を扱った独立した話のようですが、5話目の『ベーシックインカム』の作中で、他の4つの話が「私」という作家が書いた短編小説だったと明かされます。
4つの話を軽く紹介します。
◆『言の葉の子ら』
とある幼稚園が舞台。
エレナは日本語の勉強のために、そこで保育士として働いています。
彼女は他の子どもたちに暴力的な少年・福嗣の悩みを、彼の発言や作文の特徴から分析し、誰も知らなかった真相に気づきます。
◆『存在しないゼロ』
豪雪地帯の村で、救助されずに家の中に取り残された3人家族の話です。
雪が溶けてレスキューがやって来ますが、夫だけはすでに死亡していました。
雪かきのためにトラクターを動かそうとして、腕が巻き込まれて彼は死亡したのだと妻は主張します。
しかし司法解剖の結果、事故ではなく他殺のようだと判明しました。
さらに妙なことに、まだ食糧が残っていたのに、妻と娘は夫の腕を食べていました。
腐っていたわけでもないのに、なぜ食糧に手を付けなかったのでしょうか。
◆『もう一度、君と』
妻が突然失踪しました。
夫はその理由を探るため、妻がハマっていたVRの怪談の世界に何度も入り込みます。
後日、実は妻はこっそり産婦人科に通っており、妊娠していたことが分かります。
子どもを欲しがっていたはずなのに、VRを見て心変わりしたようです。
一体、VRの何が妻を変えたのでしょうか。
◆『目に見えない愛情』
視覚障害を持つ娘が、人工視覚手術の被験者に選ばれました。
本当は高額の手術代がかかるのですが、父親がコネを使って格安で出来ることになったのです。
父親は単に視覚を取り戻すだけだと思っていたのですが、最新の視覚手術では紫外線まで見えるようになる等の、一般人を超えたレベルに視覚が強化されることを知ります。
手術が成功した後、娘は驚愕の真実を見ることになりました。
いずれも近未来の技術を題材にしており、トリックもその技術に絡んだものになっています。
これから5話目の『ベーシックインカム』を紹介します。
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<あらすじ>
交通事故に遭って右足を義足に変えた「私」は、作家として生計を立てていました。
ある日、「私」の恩師である教授が家に訪ねて来ました。
教授が研究中のベーシックインカム制度について、二人がしばらく議論を交わした後、教授は研究室の金庫から預金通帳が盗まれたことを告白しました。
正確には、通帳だけでなく印鑑や札束も全部です。
教授が盗難に気づいたのは2日前。
盗まれたのは6日前~3日前までの間です。
犯人はまだ捕まっておらず、警察にも知らせていません。
教授は、事が公になる前に「私」に確認したいことがあると言います。
それは犯行の手口です。
金庫の暗証番号は教授しか知らず、番号は定期的に変更しています。
研究室のドアはICカード式のオートロックで、開錠時間はシステムに記録され、教授の持っているカードでしか出入りした記録はありません。
さらに数ヶ月前にも盗難事件があったため、研究棟の出入りの際には受付で身体検査までされるという厳重な警備が実施されています。
これらの三重のセキュリティをどうやって突破したのかが、教授には分かりませんでした。
さらに部外者は、研究棟へ手荷物を持ち込むことすら禁止されています。
だから盗んだものを持って出ていくことも困難になります。
そもそも金庫の存在を知っている人物は限られています。
つまり犯人は内部犯か、内部に手引きした者がいるということです。
教授はゼミ生の部屋でボヤ騒ぎを起こした、小池という学生を疑っていました。
しかし「私」との検証の結果、彼が盗み出すには犯行時間が足りないことが分かりました。
果たして犯人は誰なのでしょうか。
そして、どうやって3つの鉄壁のセキュリティを突破したのでしょうか。
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<まとめ>
近未来に実現可能とされる科学技術(AI、遺伝子工学、VR、人間強化(エンハンスメント)、ベーシックインカム)を題材としたSFミステリーです。
技術そのものよりも、その技術によって人間の考え方や生き方はどう変わってしまうのかという部分に焦点が当てられています。
謎やトリックも、題材となっているテクノロジーに絡んだものです。
だから、読み終えてトリックの仕掛けに「なるほど」と思うと同時に、新しいテクノロジーについて楽観的に考えていたらマズイかもしれないことにも気づきます。
楽しみながら勉強にもなる小説です。
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