【小説・ミステリー】『国を救った数学少女』―南アフリカの少女がスウェーデンを救う話
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『国を救った数学少女』ヨナス・ヨナソン / 訳:中村久里子 / 西村書店
⇧2015年7月発売。
文庫版はありません。
<南アフリカ共和国の原爆>
世界の核兵器保有国をご存じでしょうか。
アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスの5ヵ国が代表例です。
他にはインド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルなども保有していると思われ、イランなどの核開発が疑われている国もあります。
南アフリカ共和国もかつて原爆を持っていました。
自国で6機の原爆を造ったのですが、1990年にすべて解体したのです。
21世紀になった今でも、核保有国たちが自国の核兵器を手放さないことと比較すれば素晴らしいことです。
すべて解体した理由の一つとして、「ネルソン・マンデラが黒人初の大統領に選出されそうな情勢だったから」という説があります。
それまでの南アフリカ共和国では、アパルトヘイト(人種隔離政策)で黒人が差別・迫害を受けていました。
ネルソン・マンデラはアパルトヘイト撤廃のための運動をして、27年間も投獄されていました。
しかし世界的な世論がアパルトヘイト撤廃の流れを大きくしていき、彼は釈放されることになります。
そのまま彼が大統領になれば、黒人が核兵器を保有しているという状況になります。
それはマズイと判断した前政権が、彼に核兵器を与えないように予めすべての原爆を解体しておこうと画策したわけです。
セコいですね。
ちなみにスウェーデンでもかつて核兵器を保有しようとする動きがありました。
冷戦時代のソ連から自国を守るためです。
しかし最終的には、国会の決議により途中で断念しました。
この小説は、そんなアパルトヘイト政策下で黒人差別が厳しい時代に生まれた少女が、国を抜け出し、スウェーデンでの核の危機を救う物語です。
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<あらすじ>
舞台は南アフリカ共和国の貧民街・ソウェト。
主人公はそこにある「し尿処理場」で働く14歳の少女・ノンベコです。
仕事内容は糞尿の汲み取り作業なので、汚いし臭いしキツいという誰もが嫌がる業種です。
しかしその地区で学校に通っている黒人は誰もいないため、そういう仕事にしか就くことが出来ません。
学校に行ったこともないため文字の読めないノンベコでしたが、彼女は数字に強く、何年も前から所長の補佐をしてきました。
そして所長が白人に生意気な口をきいてしまったためクビになり、彼女が新しく処理場の所長に任命されました。
彼女は作業の無駄を排除し、効率化を図り、すぐに業績を前所長の何倍にも上げました。
しかしこのままの生活をしていても、大した未来はないと感じています。
ある日ノンベコは、本を持っているという男と出会います。
男は彼女にセクハラしようとしますが反撃に合います。
ノンベコは男を脅して、文字を教えてくれるよう要求しました。
その地区で本を持っている者は、その男しかいなかったからです。
ノンベコは急速に文字を覚えて本も読めるようになっていきました。
ところが貧民街は治安が悪いので、ある日男は殺されてしまいます。
男の住処から宝石を見つけ出したノンベコは、お金に困ったときの切り札としてそれを盗みます。
宝石を換金しようと町を歩いていた彼女は、不運にも車に轢かれてしまいました。
さらに裁判では轢かれたノンベコが悪いことにされ、お金もないので賠償金は車の運転手の仕事の助手を7年間勤め、その給料から天引きするという判決が下されました。
車の運転手・ヴェストハイゼンの仕事は化学技術者でした。
具体的には原爆の研究開発です。
当然、研究所は秘密保持のために厳重に警備され、そこに掃除婦として連れて来られたノンベコは逃げ出すことができません。
本が読めるようになって知識欲が高まった彼女は、仕事のかたわら研究所内の図書館に通います。
そして技術者の研究内容を、ポンコツの技術者よりも正確に把握していきます。
いつしか彼女は技術者の右腕的存在になっていました。
政府は技術者に6機の原爆を造るように要請しましたが、いつも酒ばかり飲んで酩酊状態の技術者は間違えて7機造ってしまいました。
そして時代は進み、「原爆を6機とも解体せよ」という指令が届きます。
指示通りに6機を解体する技術者でしたが、当然1機余ります。
その原爆は解体されずに秘密で保管されることになりました。
南アフリカの原爆解体に関わったとされるイスラエルの諜報機関・モサド。
彼らは余った1機の原爆を確保するため、技術者を暗殺しました。
ノンベコはその騒ぎに乗じて、研究所を脱出して移民に寛容なスウェーデンに亡命することに成功します。
しかしイスラエルに送るはずだった原爆は、研究所の使用人の手違いで、ノンベコと一緒にスウェーデンに発送されてしまいました。
原爆を解体する手段がないノンベコは、スウェーデンの首相に会って引き取ってもらおうと考えます。
しかし、電話をかけても秘書がまともに取り合ってくれません。
果たして彼女はどうやって首相とコンタクトをとるのでしょうか。
あってはならないはずの原爆は、どう処分されるのでしょうか。
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<まとめ>
驚くほど目まぐるしく展開が変わります。
上記のあらすじではノンベコ(南アフリカ)側だけで説明しましたが、実際はスウェーデン側の主人公・ホルゲルのストーリーも奇想天外で面白いです。
君主制を打倒しようと父親が双子の息子に洗脳教育を施し、一方は父の遺志を継ぎ、もう一方は反発しながら兄に振り回されます。
個々のエピソードがすでに面白いのですが、ノンベコとホルゲルの人生が交差することで物語は大きなうねりになります。
この小説を読めば、物語はリアリティを追求すればいいというものじゃないことが分かります。
ときには展開にダイナミックさ、壮大さが必要なのです。
普通なら起こりえないことでも、史実を混ぜながらもっともらしい嘘を重ねていくと、とんでもないストーリーが生まれます。
映画などの映像作品だと嘘臭くなってしまう表現でも、小説なら気にならないというのは確かにあります。
「 小説だからできること」
この作品はそれを体現しています。
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