【エッセイ】『漫画家入門』浅野いにお―漫画家の日常風景
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『漫画家入門』浅野いにお / 筑摩書房
⇧2019年9月14日発売。
<前情報>
似たようなタイトルで『石ノ森章太郎のマンガ家入門』がありますが、別物です。
◆『石ノ森章太郎のマンガ家入門』石ノ森章太郎 / 秋田書店
⇧こちらは漫画家を目指す子どもたちに、漫画を描くための基本的な方法論を教えるという内容です。半分は実用書です。
一方、これから紹介する『漫画家入門』はエッセイです。
漫画ではありません。
著者は大ヒット漫画『おやすみプンプン』(小学館 / 全13巻)の浅野いにおさんです。
彼の2018年5月末から2019年4月にかけての日記です。
漫画の技術的な話はほとんど出て来ません。
自動車免許の講習を受けに行ったり、車や家を買ったり、再婚したりということを除けば、本当に何も起こらない日常が描かれています。
著者のファン以外の人が読んでも、いまいちピンと来ないかもしれません。
あるいは、一種の静かで狂気的なホラーとして読めるかもしれません。
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<職場風景>
漫画家は超忙しいというイメージがありますが、連載をしていなければそうでもないようです。
著者は自分でも無意味だと分かっているネットサーフィンを頻繁にやっています。
何かを調べるためでもなく、楽しむためでもありません。
エゴサーチは飽きずに毎日やっているし、睡眠時間を削ってゲームもやっています。
食事はほとんどコンビニで買ってきて済ませます。
外出したいという願望はなく、ほとんど引きこもり生活を送っています。
無意味さに引き付けられ、破滅願望に憑りつかれているようです。
燃え尽き症候群でやる気を失っているようにも見えます。
しかし、こういった虚無的な空気が著者の漫画作品内に反映されているので、決して無意味ではないのかもしれません。
著者は特別忙しいわけでもない時でもアシスタントを数人雇っていて、使うかどうか分からない3Dモデルを作ってもらったりしています。
半分遊びみたいなものです。
アシスタントが著者の仕事場に出勤しても、すぐに仕事を始めるわけではありません。
毎回彼らと仕事前に数時間の雑談を交わすそうです。
著者の気分転換も兼ねているのでしょうが、非常にのんびりした職場風景ですね。
主力アシスタントのゆかちゃんは、仕事が終わっても仕事場でゲームを何時間もしてから帰ります。
仕事の日が連続していると泊まり込んだりもします。
個人的にはこういう職場って気を使わなくていいなあと思いますが、「倫理的におかしい、非常識だ」といって辞めていくスタッフもいたようです。
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<漫画について>
このエッセイの白眉はやはり最後の章です。
著者が本音の漫画論を吐露しています。
著者は漫画家として20周年を迎えたわけですが、年々フィクションに対する拒否感が強まっているそうです。
漫画より現実の方が俄然面白いと感じているからです。
物語で魅せるメディアの中では、漫画は制限が多い媒体です。
アニメのように動かないし、音も聞こえないし、カラーではないからです。
それゆえに独自の作法を育んできました。
しかしずいぶん昔に表現は頭打ちになっていて、それ以降は基本的に古典の焼き直しになっていると著者はいいます。
そして読者も作者もそれを好んでいると。
つまり著者は、人間らしい不出来や誤り、無駄や無意味がこの世にはたくさんあるのに、漫画はそういうものを描くのが不得手な媒体なことに悩んでいるようです。
映像化までこぎつければ作品としてひとまず成功かもしれませんが、漫画の存在意義が映像化のプレゼン用プロット代わりになって欲しくないとも訴えられています。
漫画が不完全なものであることを認めることになってしまうからです。
漫画制作は低コストだから低リスク。
だから作家個人の横暴も許される。
それが漫画に残された最後の矜持なのだそうです。
漫画のあり方について考えさせられる本です。
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