【小説・SF】『三体』―人類の科学研究が壊滅させられる!
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『三体』劉 慈欣 / 訳:大森望・光吉さくら・ワン チャイ / 早川書房
⇧2019年7月4日発売。
発売と同時に売り切れ店が続出し、すぐに重版がかかった話題作です。
今書店に行けば、一番目立つ位置に置かれている本です。
中国発のSF小説です。
この作品でアジア人で初めてヒューゴ―賞(世界最大のSF賞)を受賞しました。
<ファーストコンタクトもの>
SFというジャンルにおいて、「ファーストコンタクトもの」というカテゴリーがあります。
地球人が地球外の知的生命に出会う話です。
昔のSFは宇宙領土の覇権争い(あるいは地球侵略への抵抗)のために、接触しても大体が戦争になっていましたが、最近ではその傾向は薄れてきた印象です。
例えば『ブラインドサイト』(ピーター・ワッツ )では、知的生命とコンタクトしたはいいものの、どうやって意思疎通しようかという試行錯誤が描かれます。
そして意志の伝達手段や知性というものの在り方について、衝撃的なビジョンが示されます。
ファーストコンタクトもののマイルストーン的な作品です。
◆『ブラインドサイト』(ピーター・ワッツ / 東京創元社)
⇧2013年10月発売(文庫版)
⇩『ブラインドサイト』の詳しい紹介記事のリンクはこちら⇩
https://www.a-key-hit.com/entry/2018/08/06/054558
あるいは、ファーストコンタクトものの古典的代表作・『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク)では、出会った知的生命の科学技術力も知性も圧倒的に人類を上回っていたため、人類は戦争に発展するまでもありませんでした。
人類は運命を弄ばれるだけの存在になります。
◆『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク / 早川書房)
⇧1979年出版。(文庫版)
東京創元社からも出ています。
⇩『幼年期の終り』の詳しい紹介記事のリンクはこちら⇩
https://www.a-key-hit.com/entry/2018/06/23/101136
また、『白熱光』(グレッグ・イーガン)では、出会わないファーストコンタクトという変則型が描かれています。
◆『白熱光』(グレッグ・イーガン / 早川書房)
⇧2017年6月発売(文庫版)
⇩『白熱光』の詳しい紹介記事のリンクはこちら⇩
https://www.a-key-hit.com/entry/2019/04/27/000719
『三体』もファーストコンタクトものです。
この本は三部作の第一部であり、まだ交信を何度かするだけです。
第二部以降に戦争に発展しそうな感じがありますが、第一部では接触までいきません。
けれど、そこに至るまでの大風呂敷の広げ方がメチャクチャ面白いです。
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<あらすじ>
主人公は中国人女性の天体物理学者・葉文潔(よう ぶんけつ)。
文化大革命の時、彼女は目の前で物理学者だった父親を惨殺されてしまいます。
その理由は学生に相対性理論や量子力学のコペンハーゲン解釈やビッグバン理論を教えたからです。
これらは当時の中国では反動的思想だとみなされました。
反動的な人物だとレッテルを貼られた者は、考えを改めて反省の意志を示さなければ処刑されてしまいます。
文潔の父親を反動的だと密告したのは母親でした。
同様の理由で、彼女の恩師も自殺をしてしまいました。
文潔はもはや誰も信頼できなくなり、国家や人間に対して希望を失いました。
失意の中、文潔は大学院を卒業後は内モンゴルの生産建設兵団に所属し、森林を切り開くだけの毎日を送っていました。
そこで上司に裏切られ、文潔も反動的思想を持つ人物であるとみなされます。
懲罰的処置として、彼女は一般人の立入りが厳しく禁止されている軍事基地に連れていかれ、そこで働くよう指示されます。
そこには巨大なパラボラアンテナが設置されており、定期的に何かの照射実験がされていましたが、詳細は秘密にされていました。
それから40年後。
もう一人の主人公であるナノテクノロジー素材の研究者・汪淼(おう びょう)は、ある会議に呼び出されます。
そこでこの2ヶ月足らずの内に、世界中で物理学者たちが次々と自殺していることを知らされます。
自殺した者のリストを渡され、その中には文潔の娘・楊冬(よう とう)がいました。
楊冬の遺書にはこう書かれていました。
「これまでも、これからも、物理学は存在しない」
どうやら「科学フロンティア」という組織が事件に関係しているようで、汪淼はそこに潜入捜査するよう指示されます。(実績のある科学者しか入会できない)
そして捜査を続ける中で、汪淼に不思議なことが起こります。
彼が撮影した写真にのみ、謎のカウントダウンの数字が写り込むのです。
数字がゼロになったときに一体何が起こるのか、彼は不安になりました。
汪淼とその仲間の警察官・史強は、得体の知れない何者かが物理学的にはありえない現象を起こし、科学者を絶望させて自殺に導こうとしていると推理します。
また、世界的に科学研究団体に対する犯罪が急増していました。
犯人の動機は金でも報復でもなく、政治的背景もなく、単に壊したかった、殺したかったというだけのものばかりです。
黒幕たちの目的は不明だけれど、人類の科学研究を壊滅させようとしているのではないかという結論に汪淼たちは至ります。
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<まとめ>
とてつもない大風呂敷の広げ方です。
人類の科学研究を誰が何のために崩壊させようというのでしょうか。
普通はこんなぶっ飛んだ設定は作られません。
バカミス(バカみたいなトリックのミステリー)のように、バカSFの烙印を押されかねないからです。
この小説は、ガチガチのハードSFのように見えて、実はそうじゃない作品になっています。(部分的にファンタジー)
結果としてそれがSFファンだけでなく一般大衆にも受け入れられて、中国で2100万部という大ヒットに繋がったわけです。
物語後半から地球外の知的生命と交信し始めるのですが、高度な科学技術を持っているように見えて、実はマヌケなんじゃないかという笑える展開も盛り込まれています。
知的生命が頭がいいのにアホというのは斬新です。
この作品で描かれる地球外知的生命は、アメリカやヨーロッパやオーストラリアなどの英語圏の最近の作家たちが描くファーストコンタクトものの知的生命とはかなり違っています。
日本を含め多くのSFファンは、そういうものにかなり慣れ親しんでいるので新鮮に感じるはずです。
中国人作家である著者がイメージする宇宙人像はどこまでも人間臭く、自身の権力を維持するために手段を選ばない中国共産党の姿を彷彿とさせます。
「文化大革命を批判的に描いているのによく発禁処分にならなかったな」と思いましたが、原書が中国で発表されたときは、当局に目をつけられないように著者はストーリーの構成を変えたそうです。
流石ですね。
この日本語版は著者の本来の意向をくんで、構成は元の状態に修正されています。
読者を一体どこに連れて行ってくれるのか楽しみでしかないワクワク感が味わえる小説です。
第二部は2020年刊行予定。
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