【小説・SF】『白熱光』—出会わないファーストコンタクト
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『白熱光』グレッグ・イーガン / 訳:山岸真 / 早川書房
⇧2017年6月発売。(文庫版です)
グレッグ・イーガンの作品は面白いですが、多少難解なハードSFでもあります。
難解すぎて書いている本人も実はよく分かっていないという説すらあるほどです。
読んでいる最中は分かった気になれるのですが、いざ人に説明しようとすると非常に難しいことに気付きます。
長編が何本も書けそうないくつものアイデアを容赦なく1冊に投入してあるので内容も濃く、不満を持つ人はまずいないだろうと思います。
最近、新刊短編集『ビット・プレイヤー』が発売されましたが、どうやら『白熱光』の姉妹編の話が収録されているそうなので、先に『白熱光』を読むことにしました。
⇧2019年3月20日発売。
最近ブラックホールの輪郭撮影に成功したというニュースが話題になっていましたね。
この『白熱光』という小説もブラックホールに関係する物語です。
(⇩ニュースで紹介されていた撮影画像)
強い重力のために物質だけでなく光さえもそこから脱出できないといわれるブラックホールですが、そもそもどうやって出来るのでしょうか。
恒星の超新星爆発の後に中性子星ができます。
中性子星は中性子が主な成分で、質量が大きい天体です。
中性子星が自身の重力に耐えきれずに崩壊するとブラックホールになります。
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<あらすじ>
今よりも遠い未来。
人類は宇宙にその居住空間を拡大していました。
他の種族とともに銀河円盤全体に広がる「融合世界」という文明圏を築いています。
「融合世界」では物質世界と電脳世界が混じり合い、ネットで生まれた生命も人類と同じ生命だという扱いです。人類も仮想空間のネットワークを介して人格や意識を別の身体に移植することができます。
つまり人類は肉体が必要なくなったことで寿命が長くなり、未知の世界もなくなり、物質的にも満たされている退屈なユートピアで生きているのです。
ただ、「融合世界」から長年関係を遮断してきた「孤高世界」も存在します。
「孤高世界」は銀河の中心にあり、ネットワークもつながっておらず、人類にとってはずっと謎の場所でした。
「融合世界」からメッセージを送っても返ってくることはなく、向こうから干渉をしてくることもありません。
何百万年も関係性が無かった二つの世界でしたが、ある日、「孤高世界から来た使者」だと自称するメッセンジャーが主人公・ラケシュのもとに現れます。
「孤高世界」には未知の生命がいる可能性が示唆され、毎日に退屈していたラケシュは友人と共に冒険の旅に出かけます。
「孤高世界」に近づくにつれて生命の痕跡を発見していく二人ですが、どうやらかなり以前に大規模な崩壊があったことが分かってきました。
一方、「孤高世界」の中にある岩だらけの小惑星<スプリンター>では、老人ザックが画期的な発見をします。彼は<スプリンター>における物体の重さと動きを表した地図を作りました。
<スプリンター>には学問が存在せず、住人たちは毎日農業に勤しみ、三大欲求をみたせればそれで満足という生き方をしていました。
そんな知的好奇心が欠如した民族の中に、ザックという物理学に興味をもった特殊な発想をする者が現れたのです。
ザックはロイという女性に出会い、彼女に地図を見せて重力の話を聞かせます。
ロイはザックの話に興味を覚え、ザックの科学実験に付き合うようになります。
天体の物理法則が分かってくるにつれて、<スプリンター>に崩壊の危機が迫っていることが判明します。
実は<スプリンター>はブラックホールを周回していて、自らの重力で分裂しつつあったのです。しかも別の周回軌道の惑星が近々衝突する可能性もあり、ザックとロイは<スプリンター>の崩壊を阻止するための方法を模索していきます。
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<まとめ>
ラケシュの物語が奇数章、ザックとロイの物語が偶数章で交互に描かれています。
「ファーストコンタクトもの」の展開を裏切るかのように、最後まで彼らが出会うことはありません。
けれどそれぞれの研究や冒険が、お互いのアンサーストーリーになっています。
つまり奇数章での疑問が偶数章で回答されていたり、偶数章での常識が奇数章での謎になっていたりします。読者だけが全体像を知ることができる贅沢な立場にいるのです。
一番面白いのは、ザックとロイの世界には天動説や地動説すらなかったのに、実験と思考を重ねていくことで相対性理論まで一気に進歩するところです。
物理学や数学の専門用語を一切使わずにそれを描き切った著者に脱帽です。
「今まで見えていた世界が一つの仮説によって全く異なる景色に変わる」という鳥肌が立つ瞬間を何度も味わえる作品です。
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