【小説・ミステリー】『叡智の図書館と十の謎』―ファンタジーで終わらない物語の広がり
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『叡智の図書館と十の謎』多崎礼 / 中央公論新社
⇧2019年2月22日発売。
文庫版です。ハードカバー版はありません。
<叡智の図書館の設定>
物語の舞台である叡智(えいち)の図書館。
それは時間にも空間にも支配されない知の殿堂です。
無限に続く書架には、古今東西の知識と思想、あらゆる生命の記憶と歴史、この世に存在する思考の全てが記録されています。
大きすぎるビッグデータですね。
叡智の図書館にたどり着いた者は、森羅万象に通じ、神に等しい力を手に入れられるという伝説があります。
それを信じた多くの者達がその探索に人生を賭けました。
それは実在するのか。どこにあるのか。どうすればたどり着けるのか。
答えを知る者は誰もいません。
旅から帰還した者がいないからです。
物語の始まりは、こういったファンタジー的な入口になっています。
しかし徐々にSF+ミステリー要素が加わっていきます。
あとがきによれば、J・L・ボルヘスの『バベルの図書館』が設定のモデルだそうです。
本好きの人間にとっては、ワクワクする設定です。
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<あらすじ>
見渡す限り白い砂漠が広がる場所。
そこに六角錐の塔が建っていました。
主人公の旅人・ローグは、旅路の果てにその塔を発見します。
どうやらその塔こそ、叡智の図書館の入り口のようです。
そう、冒頭からいきなり発見してしまうのです。
塔には一つの輪が人の頭ほどもある巨大な鎖が何重にも巻き付いていました。
その鎖があることで、塔の扉は封印されています。
さらに塔の門番として、扉の前には女神像が立っていました。
その石像は槍を持っていて、ローグが塔に近づくと動き出して槍の切っ先を向けてきます。
そして石像はこう言います。
「汝に問う。
回答の機会は一度きり。逃亡すれば頭を落とす、答えなければ首を削ぐ。答えを間違えれば心臓を貫く。」
どうやら石像の出す10個の質問に正解し続ければ、扉が開かれるようです。
叡智の図書館を探すために命を賭けて旅をしてきたローグにとって、それは望むところでした。
彼は旅の相棒として、石板の端末(つまりiPadみたいなもの)を持っていました。
石像の出す質問に対して、その都度端末で検索をかけてローグは答えを探します。
ズルい気もしますが。その質問のルール自体が「失敗すれば殺される」という無茶なものだし、タブレットの持ち込みは禁止という決まりもないので、回答方法としては別にかまわないと石像に認められました。
石像の質問は抽象的で漠然としています。
「無知な者が知識を得たいと欲するのはなぜか」とか、
「知識の活用に不可欠なもの。知恵を行使する目標となるものは何か」といったものです。
石板は10個の質問に対し、10個の物語を提示し、「だから質問の答えは〇〇だ」と結論を導いていきます。
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<まとめ>
なんともジャンル分けしづらい不思議な作品です。
序盤はファンタジーかと思わせて、後半からSFになり、最後はミステリー的な世界観に変わります。
この作品は、『小説BOC』という文芸誌に連載されていたものが一冊にまとめられたものです。『小説BOC』は季刊誌(年4回発売)です。
そこで連載された各短編(10話構成)をつなぎ合わせることで、石板の提示する物語が小説内小説の形になっています。
しかし大枠の流れは最初から最後まで一貫していて、最後に驚きの展開が待っています。
最後の質問になって、門番の石像の正体とローグの目的が明かされ、読者の見ていた世界が反転するのです。
女神像の正体や設定が現代的なオチで、ファンタジーで終わらせない世界観の広がりを感じました。
「ファンタジー小説はリアリティを感じられないから苦手だ」という方にも抵抗なく受け入れられる作品だと思います。
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