【小説・文学】『堆塵館』―想像力の飛翔
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『堆塵館』エドワード・ケアリー / 訳:古屋美登里 / 東京創元社
↑表紙は一見不気味ですが、ジッと見ているとなんだか味わいが生まれてきます。
著者は作家であると同時に挿絵も自分で描いています。(表紙も)
2016年のTwitter文学賞で2位獲得。
この本を手に取るまで、「Twitter文学賞」なるものを知りませんでした。
ミステリーもSFも、あらゆるジャンルがごちゃ混ぜのランキングなので、見たことのない作品名を探すという目的としては、役立ちそうだなと思いました。
<イギリスの児童文学>
この小説は、文学とカテゴリー分けしましたが、イギリスの児童文学です。
(まあ、現在著者はアメリカに住んでいるそうですが。)
ハリー・ポッターの大ヒットからも分かるように、イギリスでは「ファンタジー」というジャンルが盛んです。盛んというより、一般大衆に共通教養的な素養がすでに備わっているといった方がいいかもしれません。
自然と、児童文学にもファンタジー色の強いものが多くなっているというのが個人的な印象です。
御多分に漏れず、この『堆塵館』もファンタジー要素が含まれています。
大人が児童文学を読むコツは、唐突な展開にいちいちツッコまないことです。
荒唐無稽な設定に、逐一疑問を差し挟まないことです。
説明不足のまま進むストーリーに不満を抱かないことです。
いわゆる大人が読む小説とは、その辺が異なります。
大人向けのファンタジーでは、現実の物理法則と違っていたとしても、物語内でのルールはきちんと説明されるものです。(そうしないと文句を言う大人が多いから。)
児童向けファンタジーは、説明はザックリしています。
「そういうものだ」と素直に受け入れて、子どもは読み進めていけるのです。
子どもは論理的な矛盾点をいちいち探して、指摘してやろうという発想で本を読まないものです。
素直な心を持って読みましょう。
『不思議の国のアリス』なんて、荒唐無稽もいいとこですから。
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<あらすじ>
ロンドンから離れたある区域に、ゴミ山(ゴミ集積&廃棄場所)がありました。
ゴミ山は海のように鳴動し、生き物のようにあらゆるもの(人間もゴミも)を飲み込んで大きくなっています。
その区域(ゴミ山の近く)には「堆塵館」という大きな屋敷があり、そこにはゴミから一大財産を築いたアイアマンガー一族が住んでいました。
上階では純血アイアマンガーたちが暮らし、下階では召使いなどの混血アイアマンガーたちが生活しています。混血の度合いによって、純血と会っていいかどうか、上階のどの部屋まで入室してよいかが定められています。
人手が足りなくなれば、町の人間から混血の人間を探してスカウトしてきます。
両親が謎の奇病で亡くなった直後の少女・ルーシーが、召使いとしてスカウトされて屋敷にやってくるところから物語は始まります。
彼女は暖炉の掃除係を命じられます。
入ってはいけない部屋や、してはいけない行動を厳命されますが、彼女は好奇心旺盛で行動力も抜群だったので、仕事をしつつも屋敷を探検します。
そこで純血の少年・クロッドと出会います。
これまで下っ端の召使いと純血が出会うことがないように、勤務時間も計算されていたのですが、偶然が重なって出会うことになりました。
彼らが、アイアマンガー家のしきたりや規則をことごとく破って、屋敷内に混乱をもたらしていくことになります。
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<想像力の飛翔>
この物語の設定で一番の魅力といえば、なんといっても「誕生の品」です。
アイアマンガー家では、生まれたときに「誕生の品」を与えられます。
それは皆異なっていて、風呂の栓だったり、マッチ箱だったり、鼻毛切りハサミ、鍋、ドアの取っ手、洗面器、カーテンレール、鳥かご、マントルピースなど、
本当に法則性がなく統一感もないものばかりです。
それらを肌身離さず大切に扱うことが、その人間の評価に直結します。
無くしたりしたら一大事です。(人格を疑われる。)
クロッドには「誕生の品」の声を聞くことができる特殊能力がありました。
「誕生の品」には個々に名前が付いていることを発見します。
実は「誕生の品」は、元は人間だったことが後に判明します。
アイアマンガー一族は、「誕生の品」を肌身離さず持っていないと、「物」になってしまうのです。「誕生の品」は一種のお守りだったのです。
「誕生の品」にまつわる設定の数々は本当に魅力的で、想像力を飛翔させるということはこういうことなんだなと感じました。
上記の文章では、まだ全然説明しきれていない設定がたくさんあります。
現実世界で頭が凝り固まってしまって、想像力が低下していると思う大人の方は、
ぜひこの本を読んで、自分が子どもの頃に味わっていたはずの、空想する気持ちよさを思い出してみて下さい。
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