【小説・文学】『奇跡も語る者がいなければ』—奇跡はいつでも起きている
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『奇跡も語る者がいなければ』ジョン・マグレガー / 訳:真野泰 / 新潮社
⇧2004年11月発売。
文庫化はされていません。
タイトルがいいですね!
原題は『If Nobody Speaks of Remarkable Things』。
「Remarkable」は「注目すべき」とか「驚くべき」とか「特筆すべき」といった意味です。(Weblio英和辞書より)
翻訳者の方のセンスが光っていることが分かります。
<新潮クレスト・ブックス>
この小説は「新潮クレスト・ブックス」というレーベルから出ていて、
これは上質な海外の小説やエッセイを取りそろえたシリーズだそうです。
このレーベルでは、カバーデザインや紙質にもこだわっているそうなので、文庫化はおそらく積極的にはしない方針なのかもしれません。
(もちろん『朗読者』(ベルンハルト・シュリンク)など文庫化されているものもあります。)
この本は2019年2月現在絶版で、中古でしか入手できません。
<あらすじ>
イギリスのとある町の一角での、とある一日が描かれます。
10番地~ 22番地あたりに暮らしている人々の、何気ないいつもの日常が細かく描写されていきます。
(これがミステリーなら、目を皿にしてどこかに手がかりが隠されていないか疑いながら読み進めるところですが、文学作品なので純粋に著者の詩的な文章を味わうだけでOKです。)
「双子」をキーワードにして、特定の人物たちにスポットが当てられます。
・過去に事故にあったが助かった双子の一方。
・妊娠していたのが双子だったことを知る女性。
・その女性が好きだった兄をもつ、双子の弟。(兄は心筋梗塞で過去に他界。)
現在と3年前の過去が交互に語られ、ラストに全体像が見えてきます。
その対比によって、タイトルの「奇跡」とは何なのかに読者は思いをはせることになります。
「名もない人々の平凡な生活の中に、奇跡と呼べるような素晴らしいことが実はいくらでも起きていて、でも人々の目は曇りがちでそれが見えていない」というテーマです。
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<ミステリーのテンションで読まないように>
この小説では、
殺人事件が起こるわけでもないし、宇宙人が現れるわけでもありません。
元刑事やサイコキラーが密かに暮らしているわけでもありません。
パンデミックや暴動が発生するわけでもありません。
特殊能力を持った人物や、天才が登場するわけでもありません。
普通の人々の普通の生活が描かれています。
だからミステリーやサスペンスばかり読んでいる方には、序盤は物足りないかもしれません。僕もそうでした。
ミステリー愛読者には、冒頭から刺激的な展開がない作品は「つまらないもの」と判断してしまう悪癖があります。
しかし文学というのは、サスペンスのようにストーリーの起伏や緩急、あるいはキャラクターの特異さで魅せるものではなく、登場人物を通した著者の「視点の斬新さ」や「発想の意外さ」、「見解の鋭さ」を感じるものだと僕は思っています。
心地よさやカタルシスは用意されていないつもりで読んだ方がいいのです。
(幸運にも、この小説にはカタルシスは用意されているのですが・・・)
味の濃いジャンクフードばかりを食べていると、いつしか繊細な味の和食が物足りなくなってしまいます。
物足りないだけでなく、微妙な味の違いが分からない鈍感な味覚になってしまいます。
これはマズイです。
物事の繊細な違いが分からなくなっていることは、自分の感性が鈍っている可能性があるということです。
放っておくと、自覚がないままどんどん鈍くなっていき、いずれは何も感じなくなります。何も響かなくなります。
それこそが「老い」だと思います。
ミステリーやサスペンスばかり読んでいる方は、たまには別のジャンルの本も読んでみて下さい。
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