【新書】『間違う力』―あえて間違えそうな方へ行く
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『間違う力』高野秀行 / KADOKAWA
僕が買ったものには、著者がクモ(の素揚げ?)を食べている帯が付いていました。
アジアのどこかの村に宿泊したときに、提供された料理です。
帯を取るとシンプルな表紙ですが、新書はどの出版社でも全部そういう表紙です。
表紙に文芸書のようにデザイナーがつかないのだと推測します。
文芸書の売上げが年々落ちているとはいえ、まだ新書よりかは、商品として売れているのでしょう。デザイナーに頼むと採算が取れなくなるのかと。
増刷がかかったり、新書のフェアのときに帯だけ入れ替えて書店に並びます。
でないと、タイトル以外で見分けがつかないですからね。
高野秀行氏の著書は、書店で見かける度に「ちょっと気になるタイトルの本があるぞ」という認識があったのですが、どうにも購入にまで至りませんでした。
扱っているジャンルがキワモノ過ぎる、マニアック過ぎるというので尻込みしてしまっていました。
しかし、テレビの『クレイジージャーニー』で彼のやってきたことを紹介する回を観て、認識が変わりました。
なんて面白い生き方をしている人なんだろう!と感心しました。
『クレイジージャーニー』に出てくる人は、大体そういう変わった人がいつも紹介されるわけですけど・・。
彼の「変わった生き方」にはそれなりの戦略性があることが見えてくるような、知的な話し方をされる方だなという印象を受けました。
著者はノンフィクション作家で、
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやる」のがモットーです。
この本では、彼の人生哲学ともいうべき、辺境探検家としての戦略が語られます。
10か条にまとめられて、各章立てで解説されています。
こんな感じです↓↓
(1) 他人のやらないことは無意味でもやる
(2) 長期スパンで物事を考えない
(3) 合理的に奇跡を狙う
(4) 他人の非常識な言い分を聞く
(5) 身近にあるものを無理やりでも利用する
(6) 怪しい人にはついていく
(7) 過ぎたるは及ばざるよりずっといい
(8) 楽をするためには努力を惜しまない
(9) 奇襲に頼る
(10) 一流より二流をめざす
まあ凡百の自己啓発本には書かれていないであろう奇妙な信条です。
けれどこれらは、彼の独創性・特異性を高め支える戦略なのです。
口だけの概念ではなく、どういう探検をしてこういう結果になったという、実際の経験を元にした解説がなされています。
探検ばかりしていて、本なんか書いているヒマあるのかな?と思われるでしょうが、
著者はノンフィクション作家としては、かなり作品数が多い方です。
20作以上あるのではないでしょうか。
早稲田大学探検部に在籍し、学生時代に書いたデビュー作『幻獣ムベンベを追え』(集英社)をはじまりとして、
他には『アヘン王国潜入記』、『巨流アマゾンを遡れ』、『ミャンマーの柳生一族』、『アジア新聞屋台村』、『未来国家ブータン』(集英社)、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)などがあります。
なんといっても『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)が最強に面白かったですよ。
ソマリランドは治安が悪くて、海賊が若者の憧れの職業(リアルは『ONE PIECE』のような爽やかでカッコイイ感じではない)という国で、容易に渡航できないのですが、となりの国から陸路で入国しそこで生活することで、世界から謎の国家だといわれた人々の生活や価値観、風習を解明するまでに至るかなりブ厚い本です。
まずはソマリ語を勉強するところから始まるのですが、もうそこからすごい!
まず日本人で話せる人が誰もいないし、当然教科書(学習教材)があるわけでもありません。
なんとかツテをたどってソマリ人に教えてもらうことになり、結果として著者が日本で一番ソマリ語が話せる人間になり、今ではソマリランドの第一人者になってしまうという展開に。まさにクレイジー。
10か条の 1、3、7、8の実践ですね。
↑現在では文庫版も出ていてリーズナブルな値段に。
著者の大学の卒論のエピソード(切り抜け方)も、非常に面白かったです。
冒険ばかりして単位が足りずに卒業がヤバかった著者は、冒険先のコンゴの文学作品について卒論を書いたそうです。
大学の先生たちも、コンゴ語がまともに分かる人なんていなかったから、クオリティなど判断できなかったのです。著者が一番分かる人間だったのです。
大学側も前代未聞だったでしょう。当たり前ですが。
その当時書き上げたものは、著者が翻訳して本になっています!
すごすぎです。まさにクレイジー。
↑現在では古本でしか読めません。電子書籍化はされていません。
『間違う力』は、著者のこういった面白エピソードが山盛りの本です。
けっこう前に出版されたみたいですが、そのときはそこまで売れなかったそうです。
テレビにも出て認知度も上がったからなのか、今年にリニューアルされて出版されることになりました。
面白い本が復刊されるとテンションがあがりますね。