【小説・文学】『日の名残り』―デレを知らないツンツン執事の悲劇
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『日の名残り』カズオ・イシグロ / 訳:土屋政雄 / 早川書房
⇧文庫版は2001年に出版されていますが、イギリスで発表されたのは1989年です。
<著者について>
カズオ・イシグロといえば、2017年にノーベル文学賞を取ったことで話題になりましたね。受賞当時は各書店が特設コーナーを作っていたのを覚えています。
さも日本人が取ったかのような扱いでしたが、著者は日系イギリス人です。
日本語での彼の著作はなく、すべて英語で書かれています。
この小説も英語から日本語に翻訳されたものです。
買った当初はミステリーだと思っていたのですが、純文学でした。
背表紙をちゃんと確認していなかった自分がアホなだけでした。
ちなみに早川文庫はジャンルを親切に分類してくれています。
『日の名残り』なら「epi」で純文学。
「SF」ならSF、「NF」ならノンフィクションです。
背表紙の上部にマークされています。
世間的にあまり知られていないのでもったいないですね(^-^A
各出版社も同じようにしてくれればいいのに・・・
<あらすじ>
終戦直後(1950年代)のイギリス。
執事のスティーブンスは困っていました。
前主人が亡くなり、屋敷には新しい主人がやってきましたが、そのときに多くのスタッフが辞めてしまって人手不足になってしまったからです。
スタッフを増やそうと旅に出る許可を主人にもらった彼は、かつての女中頭ケントンに会いに行きます。彼は以前からケントンにほのかな恋をしていましたが、今ではケントンは結婚していることが分かります。
彼はいつまで経っても、ケントンを仕事仲間という感覚で捉えていましたが、彼女はとっくに別の人生を歩んでいたのです。
同じ屋敷で同僚として働いていた当時は、ケントンからアプローチが少なからずあったのに、「品格ある執事」であることを追求してきた彼は、「執事道」を優先してしまい、彼女を仕事仲間以上の関係にしないように努めてきました。
「立派な執事」は、恋愛にうつつを抜かして仕事が疎かになってはいけないと考えたがゆえの行動です。自分にも他人にも厳しすぎたんですね。ストイックすぎたというか。
旅の終わりに、彼はようやく気が付きます。
もう彼女は仕事仲間ですらなかったのだと。
自分が彼女をやんわりと拒み続けた結果、今があるのだと。
彼女は結婚し、もはや自分の人生と交差することはないのだと。
もうこの恋は実らないのだと。
自分が失ってきたのは、どれほど大きなものだったのか。
老年の悲恋譚ほど胸が痛くなるものです。
自分の信じる「執事道」に邁進し続けた結果、一流の執事にはなれたかもしれませんが、他の大きなものを失うことになりました。
日本でいうと、「武士道」を極めんがために、日々、剣の稽古を怠らず鍛錬に励んできた武士が、後年、剣の腕以外は自分に何も残っていないことに気付く感じに似ています。
なんだか悲しく切ないですね。
本人も別に悪気があってそうしてきたわけでもないのに。
ツンツンしているだけの男には悲劇しか待っていません。
ちょっとは素直になろう!
イギリスの文学賞・ブッカー賞受賞。
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