【小説・ミステリー】『罪の轍』―昭和の誘拐捜査は超大変!
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『罪の轍』奥田英朗 / 新潮社
⇧2019年8月20日に発売。
文庫版はまだありません。
<昭和38年>
「赤電話」や「黒電話」という言葉をご存じでしょうか。
もはや世間からはとっくに消えた種類の電話機です。
赤電話は公衆電話。
黒電話は個人宅にある電話です。
この小説の舞台は昭和38年(1963年)の日本であり、こういう電話が一般的だった時代です。
もちろんスマホや携帯電話は存在しません。
黒電話すら一般的ではなく、全世帯に置いてあるわけではありませんでした。
電話をかける必要ができたら、持っている人に貸してもらうのです。
あるいは公衆電話からかけるのです。
また電話交換手という職業が存在し、話し手同士を仲介する役割を果たしていました。
ところで誘拐事件というものは、こういった黒電話が家庭で一般的になり始めた頃から数が多くなってきたそうです。
それまでにも誘拐はありましたが、そこまでメジャーな犯罪ではなかったのです。
犯人の側に立って考えてみれば分かりますが、ターゲットと時間差なく連絡を取り合えないからです。
もしターゲットの自宅に電話がなければ犯人は、
「お宅の〇〇ちゃんを預かった。返して欲しかったら身代金1000万円用意しろ」という脅迫に始まり、
「金は用意できたか。警察には知らせていないだろうな?」
「金が用意できたら、〇〇の場所まで一人で持って来い」
という連絡が適切なタイミングで実行できません。
そうすると誘拐が失敗に終わる可能性が高くなります。
手紙でやり取りすると、本当にターゲットに意図が伝わったのか分かりません。
臨機応変な指示も出せません。
警察を出し抜くことも難しくなります。
電話が家庭で一般的になっていくと同時に、誘拐事件も一般的になっていったのです。
つまり昭和38年の警察にとって、電話を使った誘拐事件は新しい形の犯罪だったわけです。
この小説では、そんな新しい誘拐事件と遭遇した警察のドタバタぶりが描かれています。
(※比較画像⇩トトロの時代設定は昭和30年代初頭)
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<あらすじ>
時は昭和38年。
翌年に第1回目の東京オリンピック開催を控え、日本はインフラの整備を急ピッチで進めていました。
時代が大きく変わろうとしていたのです。
主人公・宇野寛治は北海道の北西にある礼文島で暮らしていました。
彼は両親から愛されずに育ち、少年時代から他人の家に侵入しては窃盗を繰り返す常習犯でした。
彼に罪の意識はなく、「貧しかったから盗むしかない」と考えています。
中学を卒業してからも窃盗癖は治らず、集団就職した工場でもそれでクビになり、あちこちで盗みを働いているうちに警察に捕まり、少年刑務所に入れられました。
寛治は少年刑務所を出てからは雇われ漁師として働いていましたが、東京で暮らすことに憧れていました。
ある日彼は先輩漁師の赤井にそそのかされ、雇い主の寅吉の家に火を放ち、住人たちが避難している間に金庫を破って、金目の物を盗んで逃走します。
そして赤井に用意してもらった船で、そのまま島を出ていきました。
警察が捜査網を敷いているので、もう故郷には戻れません。
北海道稚内にたどり着いたあとも、東京に着くまでに、彼は必要とあらば無人の家に忍び込んで服やお金を盗んでいきます。
一方、もう一人の主人公である警視庁捜査一課の刑事・落合昌夫は、強盗殺人事件の捜査にかり出されました。
被害者は75歳の男性(山田金次郎)で独り暮らしでした。
家の金庫はバールのようなものでこじ開けられています。
犯人の指紋は残っていません。
事件のあった日、付近では2件の空き巣が立て続けに起こっていました。
空き巣の捜査をしていく中で、犯人には北国訛りがあることが判明します。
犯人捜索が難航していたある日、豆腐屋を営む鈴木家の末っ子・吉夫が誘拐されました。
豆腐屋には黒電話があり、犯人から直接電話がかかってきます。
犯人の要求は身代金50万円です。
お金の受け渡し方法は、スーパーカブの籠に現金を入れて、東京スタジアムの駐輪場に置いておくというものです。
「カブの鍵は差しっぱなしでいいのか」とか、「籠の中に現金を入れて置き引きに合わないか」とか、警察の指示で犯人との会話を引き延ばしにかかる吉夫の父でしたが、犯人からは「今すぐ家を出ろ」と要求されました。
警察は焦りました。
もともと指定されていた時刻よりも1時間早まったからです。
現場に人員を確保しようとはしていましたが、警官たちは金の受け渡し時刻が早まったことを知りません。
だからその時間まではめいめい自由に行動しています。
無線が個人個人に配布されているわけではないので、連絡手段がありません。
今から各捜査員に伝達しようとすると、現場に不審な動きがあると犯人に気付かれてしまいます。
仕方なく、受け渡し時刻が早まったことを知る落合たち数人の刑事が現場に向かい、彼らだけで犯人を確保しようと試みます。
しかし捜査員の少なさから、犯人に現金を持って逃走されてしまいました。
その後、犯人との会話の録音から、誘拐犯には北国訛りがあることが判明します。
果たして、誘拐犯は寛治なのでしょうか。
無事に吉夫は帰ってくるのでしょうか。
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<昭和の誘拐捜査の大変さ>
電話を使った誘拐事件の対応に、警察は苦労します。
まず電話の逆探知ができないのがつらいです。
あと無線を各捜査員が持っていないのもキツイです。
連絡手段が限られていると、状況が変化したら現場の捜査員の行動は後手後手に回ってしまいます。
また本部(警視庁)と所轄がマウントを取り合い、捜査の進捗を妨げていることも問題です。
今も昔も各警察署には担当区域があり、彼らはナワバリ意識を隠そうともしません。
指揮系統が明確でないので、現場の捜査員はどう行動すればいいのか迷います。
また、どんな施設にも監視カメラが設置されていないので、目撃証言が出て来なければ捜査は行きづまります。
さらに誘拐事件に慣れていない刑事たちは、身代金のために用意したお札の番号を控えておくことも忘れていました。
新しい形の誘拐事件に警察はかなり苦労したのです。
デジタル機器を一切使えない捜査は非常に大変です。
けれど地道な捜査を積み重ねることで、犯人に確実に近づいていきます。
警察がジリジリと犯人に迫っていく過程は本当にリアルで、「刑事は足で稼ぐ」とはこういうことなんだと分かります。
デジタル機器でスマートに犯人を見つけるよりも、アナログな捜査の方がドラマチックです。
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