【小説・ミステリー】『戦場のコックたち』―探偵は戦場料理人
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『戦場のコックたち』深緑野分 / 東京創元社
⇧文庫版が2019年8月9日に発売されました。
『このミステリーがすごい!2016』国内編で第2位を獲得しました。
<戦うコック>
軍隊には戦闘員だけがいるのではありません。
通信担当や、食糧や軍需品を運ぶ兵站担当といった後方支援役、そして戦場で毎日の食事を提供する料理人もいます。
そして支援役とはいえ、料理人だけは戦場の最前線にいます。
最前線の現場にいる以上、料理人も戦闘に参加します。
人手は多い方がいいので当然です。
戦場で料理担当に割り当てられる人には、様々な理由があります。
・懲罰的な意味で従事させられている者
・戦闘のセンスがなかったから消去法的に料理をしている者
・衛生管理ができておいしい料理が作れる者
などです。
料理が得意だから料理担当になったという人は、意外と少なめです。
人間は食事を取らないわけにはいかないので、料理人は絶対必要な人材です。
まずい食事ばかりの毎日では士気にもかかわります。
それなのに、戦闘員からは見下されるポジションとして扱われていたそうです。
ひどいですね。
この小説の主人公も、戦場で料理人として働きます。
もちろん戦闘にも参加します。
戦うコックというわけです。
『ONE PIECE』のサンジと同じです。
⇩ノルマンディー上陸作戦
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<あらすじ>
舞台は1944年のフランスードイツ間。
第二次世界大戦のクライマックスの時期です。
一時はヒトラー率いるドイツにフランスは占領されてしまいますが、フランスやイギリスの連合軍が押し返して戦況を覆そうとしていました。
主人公・ティモシーはアメリカ人の若者です。
戦争が激化していく中でアメリカ政府も大衆に参加を呼びかけ、彼は周りの同世代の雰囲気に流されて、兵士に応募することにしました。
半年の空挺小銃兵としての訓練期間を経て、彼は自分がどうやら軍人に向いていないことに気付きます。
射撃も上手くないし、足も平均より遅かったからです。
ティモシーは子どもの頃から、祖母直筆のレシピ本を眺めるのが好きでした。
そして食べることが好きだったので、コックならできるんじゃないかと考えます。
しかし、軍隊内でコックの身分が軽んじられていることを知っていたので、率先してやりたくはないという中途半端な気持ちのまま過ごしていました。
ある日、中隊のコックのリーダー・エドワードから誘いを受け、ついにコックとして働く決心をします。
ティモシーやエドワードが戦争に初めて参加したのは、フランスでのノルマンディ降下作戦です。
フランスは敵国ドイツの支配下にあるので安全な着陸ができません。
そのためアメリカから飛行機でフランス上空まで運ばれ、空からパラシュートで目的の村へ降下するのです。
飛行機の操縦士がパニックになって皆の着陸地点がズレてしまったことで、若干の兵士が死亡することになりましたが、ティモシーはなんとか生き残って目的の集合場所までたどり着けました。
それからは、戦闘と料理の二足のわらじの生活が始まります。
ある日、食糧保管所から粉末卵が600箱盗まれるという事件が起こります。
当然、保管所には夜も見張りが立っているのですが、彼らは「何も異常はなかった」と主張しています。
戦場では盗みを働く者はどこにでもいて、少量ならば窃盗事件は日常茶飯事です。
しかし600箱というのは規模が大きく、それらが一晩で忽然と消えてしまったことはあまりにも不自然でした。
そもそも粉末卵は不味くて皆から人気がなく、誰も欲しがらない食糧でした。
つまり売り物にもならないわけです。
一体誰が、何のために600箱もの粉末卵を盗んだのでしょうか。
探偵役のエドワードと、ワトソン役のティモシーが謎を解明するために奔走します。
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<まとめ>
日本人作家が、アメリカ人を主人公にしてフランスを舞台にした小説を書くのはやや珍しいパターンです。日本人のキャラクターは一切登場しません。
海外の小説を読んでいるような感覚を味わえます。
5章に分かれていて、1章ごとに謎が解決していきます。(連作短編)
戦場という非日常空間ならではの謎もあれば、一般社会でも起こりうる謎もあり、バラエティ豊かです。
軍規に違反してまで多くのパラシュートを集めようとする兵士の動機は、まず分からないでしょう。(第1章)
なぜ戦場で探偵まがいのことをするのかといえば、毎日の血生臭い現実から一時でも目を逸らしたいからです。
目の前の悲惨さを忘れるためには、些細なものでいいから他のことを考えるしかないのです。
探偵でもない者に探偵の真似事をやらせるための動機をつくるのは、意外と難しいものですが、その点、この小説はよく出来ています。
戦場の日常の細かな描写がリアリティを高め、人々の行動の不自然さが一切ありません。
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