【マンガ】『BE BLUES! 青になれ』35巻―引きの絵のすごさ
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『BE BLUES! 青になれ』田中モトユキ / 小学館
⇧2019年5月17日発売。
<サッカーマンガ>
世の中にはサッカーマンガがたくさんあります。
『キャプテン翼』にはじまり、『アオアシ』『GIANT KILLING』『DAYS』『さよなら私のクラマー』『エリアの騎士』『ホイッスル』『ファンタジスタ』『フットボールネーション』など数えきれないほどです。
そんな中でわざわざサッカーマンガを描くからには、作品に何か強みがないと埋もれてしまいます。
高校サッカーを描くのか、プロになってからの世界を描くのか。
同じ高校サッカーでも男子と女子では違いがありますし、ユースか部活かでも違いがあります。
主人公のポジションによってゲームの描かれ方が変わってきますし、
主人公が選手ではなく監督であるパターンの作品もあります。
監督の立場から試合を描いてもらうと、より俯瞰的・分析的・戦略的な視点でサッカーを楽しむことができます。
この『BE BLUES! 青になれ』にも、もちろん他の作品と差別化できる強みがあります。
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<このマンガの強み>
このマンガには大きな特徴が二つあります。
一つはストーリー。
主人公・一条龍が小さい頃から天才的な才能を発揮して活躍する、超王道少年マンガかと思わせておいて実は違うという展開になります。
龍が2巻で再起不能レベルの事故にあってしまって、数年間サッカーができなくなってしまうというハンデを背負うのです。
リハビリを重ねてなんとか現役復帰することはできましたが、事故にあう前のような繊細な技術は失われてしまいます。
もう一つは作画面。
サッカーはフィールド内に22人の選手がいるので、それぞれの位置関係が結構分かりにくくなりがちです。
そのために状況説明として俯瞰的な絵(カメラを引いた映像)が必要になります。
このマンガは親切にも、その「引きの絵」が多く登場します。
もちろん、重要な場面ではカメラがそこに寄ります。(クローズアップ)
その寄り引きのバランスと切り替えのタイミングが抜群に上手いのです。
カメラの「引きの絵」について以下で詳しく説明します。
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<引きの絵のすごさ>
テレビで放送されるサッカーの試合では、カメラは大抵がボールを持っている選手とその周辺しか映しません。
多くのマンガもそうです。ボールを持っている選手が主に描かれます。
サッカーは「オフ・ザ・ボール」、つまりボールを持っていない時の動き方が大事だと言われています。
けれどその動きがテレビでもマンガでも画面に映りにくいのです。
テレビではボールを追いかけている間に自然とそういう選手も映り込む瞬間がありますが、マンガでは著者が意図的に描かないと画面に一切現れません。
「引きの絵」が有るか無いかで、その後のプレーに対する読者の理解が大きく変わってきます。
だから状況説明の「引きの絵」は非常に重要なのです。
しかし、「引きの絵」を描くことを多くの漫画家は嫌がります。
複数の人間を一つのコマに描くのは、作画の手間が人数分倍増するので面倒くさいし、状況説明のための絵なので描いていてもあまり楽しくないからです。
連載作家は時間に追われているので、出来るだけ手間を減らしたいと常に考えているからです。
何気ない背景ならばアシスタントに任せるという手段も取れますが、
選手の位置関係を説明する「引きの絵」は、著者の頭の中にしか映像が無いので任せることができません。説明するより自分で描いた方が早いし確実です。
ただ、選手たちのその瞬間の配置を描くのは著者本人でも細かな計算が必要で、かなり時間が取られます。
このマンガは「引きの絵」がかなり多めに登場します。
だから「この選手はこういうコースを走って位置取りしたんだな」と、読者にはすぐに分かります。
著者が試合の流れを頭できちんとイメージできている証拠でしょう。
シーンごとに、「この選手はこういう動きをする」という全体のシミュレーションを事前に行っている印象すら受けます。
これはすごいことです。
サッカーマンガを描くことに一切の妥協が見当たりません。
テニスなどの1対1のスポーツは主人公と相手を描けばよく、
バスケは5対5なのでそれぞれの位置関係はまだ分かりやすい方です。
それに対してサッカーの11対11という選手の位置取りは非常にややこしく、それを描くのはかなり面倒なはずです。
このマンガではさらに、それぞれの選手の身体の向きや、どこに体重が乗っているか分かる姿勢まで描き分けています。
もはや驚くしかありません。
ベテラン作家の技術がギッシリ詰め込まれた作品です。
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