【小説・文学】『壺中に天あり獣あり』―没頭は現実逃避か幸せのためか
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『壺中に天あり獣あり』金子薫 / 講談社
⇧2019年2月28日発売。
タイトルが超絶にカッコイイですね。
表紙もいい感じです。
<〇〇脳>
「ゲーム脳」という言葉があります。
元々はゲームのやり過ぎで脳の前頭葉から出るβ波が弱くなって、キレやすい性格になったり表情がなくなったり認知症気味になったりするという説を提唱した自称・脳科学者がいて、彼がその状態の人を「ゲーム脳」と呼んだことが始まりの言葉です。
現在では根拠薄弱で矛盾だらけの似非科学だと言われています。
世間には他にも「テレビ脳」だったり「マンガ脳」だったり、色んな「〇〇脳」という言葉が存在します。
大抵は「それに熱中しすぎたせいで現実認識が覚束なくなったバカな人」というニュアンスが含まれています。
ゲームやマンガに馴染みのない人からすれば、現実の事象をなんでもゲームやマンガのネタに結び付けて考えたり発言したりする人達を理解できないようです。
しかし僕は、何かに熱中しすぎることは良い意味でバカかもしれませんが、悪いことだったり恥ずかしいことだとは思いません。
むしろカッコイイと思います。
何かに没頭していた方が、絶対に人生楽しいですし、人間としての魅力も増すはずだと考えています。その魅力が万人には伝わらないだけなのです。
何にも夢中にならずにボーっと過ごす人生ほどつまらないものはありませんし、そんな人に魅力は感じないでしょう。
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<あらすじ>
舞台は上下左右方向に無限に続く謎のホテル。
主人公の青年・光(ひかる)はいつからかそこで暮らしていました。
長い廊下の途中にはいくつもの部屋があり、好きに選んで使うことができます。
他にもその迷宮ホテルに住んでいる人達がいて、バーを営んでいる店や図書館まであります。
食糧や住む場所には困りませんが、脱出経路はいくら探しても見つかりません。
いつしか人々はその無限の迷宮から抜け出すことを諦め、ぼんやりと生きていくようになりました。
もう一人の主人公・ 言海(ことみ)は同じようにこの無限ホテルで暮らしていました。
彼女はブリキの玩具屋を発見し、そこの店主として生活するようになります。
最初は壊れたおもちゃを修理しているだけでしたが、そのうち修理のために分解する過程で、自分の好きなように架空の動物を作るようになりました。
無限ホテルにいてもやることがないので、動物のおもちゃを創作することが彼女のライフワークになっていきます。
ある日光は、出口探索の果てに大きな扉を発見します。
その扉を開けたら、広い空間の中に10階建てのホテルがありました。
(無限ホテルの中に、有限のホテルが存在したということです。)
そこには住人も管理人もいなかったので、光はそこの支配人になり、ホテルを営業しようと考えます。従業員を雇い、仕事を与え、自分たちが迷宮にいることを忘れることが目標となりました。
営業準備が整ったので、お客を呼ぶために迷宮の壁にホテルまでの道案内のポスターを貼りまくります。そのポスターを見た言海は、光のホテルにやって来ます。
ホテルの庭には作り物の植物が置かれていたり、天井には空の絵が描かれていました。
言海はそこに自分が創作した動物たちを設置していきます。
従業員たちは皆仕事に夢中になり、言海はますます創作意欲が高まって庭のリアリティ(本物っぽさ)を上げていこうとします。
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<まとめ>
光も最初はホテルを運営することに夢中でしたが、いつしか所詮は全てまがいものに過ぎないことに気付き、テンションが冷めていきます。
永遠に出られない迷宮の中で、その事実から目を背けて「架空の充実した生活ごっこ」を演じていても何の意味もないと考えるようになったのです。
そして従業員を働かせていることにも罪悪感を覚えます。
光は「自分には没頭する才能が無かった」と言って無限ホテルへの敗北宣言をします。
しかし光以外の人達は、光のホテルで働くことに無上の喜びを見出しています。
たとえ搾取されていようと支配されていようと、自分のやっていることに夢中になれている人は幸せなのかもしれません。
逆に搾取されていないけれど何にも夢中になれるものがない人は幸せを感じられないのかもしれません。
人生の本質を垣間見させてくれる作品です。
マンガ『百万畳ラビリンス』にちょっと似ています。
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