【小説・文学】『甘美なる作戦』―恋愛小説にもトリックは必要だ
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『甘美なる作戦』イアン・マキューアン / 訳:村松潔 / 新潮社
⇧2014年9月発売。
文庫化はまだされていません。
<後方支援のスパイ>
スパイといえばジェームズ・ボンドを連想される方も多いと思います。
彼らは危険と隣り合わせの仕事に就き、華麗でスリリングでサスペンスフルな人生を送っているのだというイメージがあります。
しかしどんな仕事にも最前線で戦う営業職もいれば、後方支援の事務処理担当もいるものです。適材適所の人材配置は組織運営の基本です。
それはスパイ組織も同様です。
国が運営する諜報機関、つまりスパイ組織は、アメリカにCIAがあるように、イギリスにはMI5やMI6があります。
この小説では、MI5に入って事務作業を担当することになった女性が主人公です。
国家公務員に該当するのかはよく分かりませんが、他の一般的な職業よりも給料は安いそうです。スパイ組織は危険が伴うから給料が高そうだと想像していましたが、一概にそうとは限らないようですね。
一度入ったら抜けられないわけでもなさそうなのに、給料が安くても辞めないのは、
「自分は国家を守るためにやっている。世界をより良い方向へ導くためにやっている」という矜持と大義があるからでしょうか?
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<あらすじ>
高校までは数学の成績が周りよりも良かったので、大学は数学科を受験してそこに入ることになった主人公・セリーナ。
しかしそこは数学の天才たちが集まる場所でした。
彼女の学力では通用せず、成績も悪くなります。
他に特にやりたいこともないので、学部を変更することもしません。
現実逃避のために昔から好きだった小説を読んで過ごす日々を送ります。
ある日、知人の紹介により数学教授と知り合います。
やがて数学教授と親しくなり、彼がセリーナを諜報機関であるMI5に推薦します。
彼女はそこに就職することになりました。
階級は一番下っ端の事務員です。
最初は書類やファイルの整理をしていましたが、ある日上司に呼び出されてある作戦を担当するよう命じられます。
その名も「スウィート・トゥース作戦」。
なんだか響きがダサいですね。
セリーナの上司は、適切な若手の著述家(学者やジャーナリスト)に経済的な支援をする方針の一環として、小説家もリストに加えたいと考えていました。
そこで小説に詳しい彼女に白羽の矢が立ったのです。
育成すべき見込みのある小説家を選定し、担当者として見守るという任務です。
ただし彼女の身分や資金の出どころは秘密にしないといけません。
選ばれた作家の名前はヘイリー。
彼はまだ大学に在籍していて成績も申し分なく、まだ短編をいくつかと雑誌に記事を書いたことがある程度でした。
セリーナは彼に「奨励金に当選した」と嘘をつき、もろもろの手続きを進めていくうちに、いつしか恋人になってしまいます。
彼女の正体や目的がバレたら恋人との関係も終わってしまいます。
(騙されていたとヘイリーが知ったら、何が本当で嘘なのか分からなくなるからです。あなたが好きなのは本当と言ったところで、信じてもらえるはずがありません。)
彼を騙し続ける重圧に耐えきれず、カミングアウトしようかと考えていた矢先、何者かが彼女の正体をバラしてしまいました。
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<恋愛小説にもトリックを>
実際、文化工作としてMI5やMI6は作家や新聞社や出版社を育成してきたそうです。
あのジョージ・オーウェルの『1984年』は彼らの宣伝工作により各国でヒットしたという話には驚きました。
この小説は1970年代のイギリスが舞台ですが、当時は共産主義を潰すために軍事以外でもあらゆる工作が実行されていたのですね。
つまり国家戦略に都合のいい小説作品をヒットさせることで、大勢の国民がそれを読み、世論を操作しやすくなるという流れです。
怖いですね~。
そんな時代背景の中で、特に何の取りえもない女スパイが若手小説家と恋仲になるというストーリーです。
中盤までは普通の恋愛小説ですが、最後にどんでん返しが待っています。
広い意味での叙述トリックです。
ヘイリーは作中でこんなセリフを言います。
「トリックなしに人生をページに再現することは不可能だ」。
最後のどんでん返しがなければ、この小説は凡作になっていたでしょう。
意外な展開やトリックが仕掛けられているからこそ、人の記憶に残る作品になるということです。
恋愛小説にもトリックは必要なのです。
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