【新書】『理系と文系はなぜ分かれたのか』—安易な二元論に与しないために
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『理系と文系はなぜ分かれたのか』隠岐さや香 / 星海社
⇧2018年8月発売。
新書にしてはややブ厚めの256ページ。
<学問分野の二分法の流れ>
「日本は文系・理系といった分類の仕方があるけれど海外にそういう区分はない」
と言われたりします。
例えば、フランスの大学入試試験バカロレアでは、「人文系」、「経済・社会系」、「科学系」の3つがあるそうです。
アメリカの大学では主専攻の他に副専攻を選択できることが多く、文系・理系を越えた分野を選べるそうです。
国際機関の統計でも「人文科学」、「社会科学」、「自然科学」と3つあるいはそれ以上の分類になっているそうです。
日本国内でも、情報学や環境科学など、従来の文系・理系のカテゴリーではとらえられない分野も生まれてきています。
こう書くと、「文系・理系の区分はもう時代遅れで無意味」だと思われるでしょう。
日本は世界で遅れている、と。
しかしこの数十年、英語やフランス語圏では学問を二つに分けて論じる傾向が増えてきたようです。「人文社会」系と「理工医」系です。
まさに日本における文系・理系ですね。
アメリカでは近年、「STEMからSTEAMへ」という方針が進められています。
ここでも、「STEAM」か「STEAMじゃないか」の二元論でよく語られます。
(※「STEAM」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)にArts(人文科学)を加えた頭文字を取ったものです。これらの分野の発展を国をあげて強く進めていこうぜ、という教育方針です。)
つまり、世界には学問分野を二分法でとらえようという流れがあるのです。
もちろん、「それじゃダメだ。分野間での断絶がもっとひどくなる」と警戒する意見もあります。
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<日本の文系・理系分類法の成り立ち>
この本では、世界における学問分野の歴史的な形成過程を紐解きながら、
日本で文系と理系がどうやって分かれたのかが語られます。
文系・理系の概念に最も影響を与えたのは官僚制度と中等教育だと著者は説きます。
明治の早い時期から、殖産興業や土木公共事業に関わる「技官」と、
行政において法務に携わる「文官」に、
役割分担がかなりはっきりしていました。
文官の登用制度が整備され、高等文官は法律に関する試験を要する専門職になります。
そして1910年代には、中等教育について定めた高等学校令の中に、「文科および理科」という文言が入りました。
文科は、法、経済、文学。
理科は、理、工、医という区分です。
これ以降、大学入試の準備段階で「文系志望・理系志望」に二分する方式が定着していったそうです。
<学問領域間の溝>
明治維新から日本の近代化を急ピッチで推し進めたかった政府は、法学と工学の人材育成に資源を集中させてきたので、分野ごとの断絶が起こりやすい構造が温存されてきました。
欧米でも20世紀後半以降は、理工系と法学と経済学が政策的観点から重視されるようになり、それ以外の学問分野との間に溝ができました。
戦時中には工学系の分野が優遇されたりと、その国ごとの政治や経済的事情によって学問領域の勢力図が形成されてきた歴史があります。
政策が定められたことで、強力なバックアップ体制が整った分野と、ないがしろにされてきた分野があるのです。
学者たちは知的好奇心のおもむくままに研究ができたわけではなく、どの国でも政府の方針にかなり振り回されることになったんですね。
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<まとめ>
文系・理系の成り立ちを説明するのだけでなく、
そこから派生する受験問題、就職活動問題、ジェンダー論、教育論など、
幅広い社会問題にまでリーチしています。
文系・理系の文化は日本人にはなじみのあるものですが、受験が終わってからは皆あまり深く考えることのないテーマでもあります。
分かっているようで、うまく説明できない概念でもあります。
日本と世界の学問の捉え方を知り、頭の中を整理するのに最適な一冊です。
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