【新書】『恐怖の構造』―人は恐怖よりも不安を恐れる
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『恐怖の構造』平山夢明 / 幻冬舎
↑2018年7月出版
平山夢明氏は有名なホラー小説作家です。
『独白するユニバーサル横メルカトル』や『ダイナー』が有名ですが、前者はほとんどミステリーですし、後者はホラーというよりコメディ色が強いです。
この本を読んで、著者の本格ホラー作品は実は未読だったことに気が付きました。
↑2007年「このミステリーがすごい!」1位。
この本では、恐怖とは何かについて語られます。
心理学的な面ではなく、ホラー作家としての視点から。
人は恐怖よりも不安を恐れるという法則。
「恐怖」は対象がハッキリしているので対策を立てやすく、覚悟を決めやすい。
一方「不安」は対象が曖昧で漠然としていることが多く、対策も立てにくいし、いつまで耐えればいいのかも分からないので精神的に参ってしまう。
だから「恐怖」よりも「不安」の方が厄介なのだと説きます。
例えば、胸にしこりを感じて医者の元へ診察してもらいに行くとします。
自分ではガンなんじゃないかと疑っています。
そこで医者に「ガンです。余命〇年です」と宣告されたとしたら、その後はどうやって生きるか、どうガンと向き合っていくかを考えればいいだけです。
ガンは恐怖ですが、戦う対象が明確なので覚悟が決めやすいとも言えます。
覚悟ができれば、恐怖は和らぎます。
しかし、医者に「いや、何ともないですね」と言われて信用できず、別の医者に行っても同じことを言われたとしたら・・・?
しこりを感じているのは自分だけが分かる事実で、ひょっとしてガンが発見されにくい位置にあるのか、それともガンとは違う病気なのか、気のせいなのか。
この不安はいつまで経っても終わらず、しまいにはノイローゼになったり神経質になったりして精神的な疲労が蓄積していきます。
不安は戦う対象が不明瞭なので、どういう姿勢で何と向き合えばいいのか分からないので、覚悟のしようがありません。
結果、言いようのない恐怖がずっと付きまとうことになります。
確かにこっちの方が嫌ですよね。
そして小説でも映画でも、ホラーというのは恐怖の対象を具体的に恒常的に描くと怖くなくなるそうです。だから不安を煽りに煽って焦らした後に「ワッ!」と読者や視聴者を驚かす手法が一番怖いのだとか。
「エイリアン」「羊たちの沈黙」といった映画を例に解説してくれます。
ちなみに僕はホラーというジャンルが苦手です。
この本を読んだ今、ホラー作品を分析的視点で観賞できるはずなので、これまでのようにビビらずに済みそうです。(とにかく怖い思いをしたくない)