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【小説・文学】『地下室の手記』―正論はプレゼン能力があってこそ

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『地下室の手記』ドストエフスキー / 訳:江川卓 / 新潮社

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↑1970年出版。光文社から新訳版が2007年に出ています。

 

ドストエフスキーといえば『罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』などが超有名ですが、

それらは結構な長編なのでかなりテンションを高めてから読まないと途中で挫折する可能性大です。

その点、『地下室の手記』は短く、ドストエフスキーを読んだことがない人には入門編として最適です。この小説を始まりとして、後の『罪と罰』『カラマーゾフ』といった大作につながっていくので、そういう意味でも順番的に理解しやすい初心者向け本といえます。

 

(そもそも僕の読書スタイルは、「絶版になりそうなものから読んでいく。マイナーなものから読んでいく。」なので、自然と『地下室の手記』を先に手に取りました。

夏目漱石や芥川龍之介は絶版にはまずならないのでいつでも読めるけれど、マイナー作家はいつ絶版になって手に入らなくなるか分からないから、そちらを優先しようという作戦です。ドストエフスキーもまず絶版にならないでしょうけど。)

 

この小説が発表されたのは1864年(150年前!)らしいです。

自意識過剰な主人公が社会との関係を断ち、地下に引きこもってひたすら思索を展開するモノローグ形式をとっています。

当時の社会の潮流としては、人間は理性的存在だと信じられていました。

逆に、「理性なんてアテにならない。人間ってのはもっと不合理な生き物だ」というのが彼の主張であり、それには同意できます。

 

しかしその主張はきちんと周囲に届きません。

社会的通念の大きな流れに一人では太刀打ちできないというのもありますが、

彼は、世間から笑われてしまったことをで憎しみを覚えていました。

彼は世間を軽蔑し、世間も彼という存在を軽視しきっています。

お互いがリスペクトしていない状態で、まともに聞く耳をもってもらえるはずがありません。議論とはそういうものです。

 

長年の一人生活のせいで、久々にかつての仲間と集まっても、会話もスムーズにできず、相手の態度の欠点ばかりが目につきます。

まあ皆も彼をバカにしている感じがなくはないのですが。

 

想像してみて下さい。

引きこもりの男を久しぶりに居酒屋に呼び出し、5人くらいで飲み会をすることになりました。他の4人はいつも顔を合わせているので、彼ら同士にしか分からない話題で盛り上がります。たまに男に会話を振っても、テンポが合わずにイマイチ盛り上がりません。男はいつも考えていることを皆に話しますが、4人は真剣に議論しようとはせずに、適当にその話題を切り上げようとします。男がまた同じ話題に戻したら、「もうその話はいいじゃん。ノリ悪いなぁ」と言われて空気が悪くなります。

全部、男が悪いかのような雰囲気が出来上がって、やがて会は解散となります。

その光景を想像するだけ哀しく切なくなります。

 

男の主張は、現代の価値観に照らし合わせても間違ってないように思えます。

しかしキョドってしまったり、テンポが悪かったり、話が回りくどかったりして、聞く側も内容が頭に入ってきにくい雰囲気が出来上がってしまっています。

正論を話しているのに、男の見た目、態度、仕草、口調が聞き手の受入れ態勢を阻害しているのです。もったいない!

 

理想論を言えば、人は相手の見た目や仕草で、自分の態度を変えてはいけないのでしょう。しかし実際の人間の癖として、相手の様子や地位によって自分の態度を変えてしまいがちです。

ですので、現実的には聴衆を引き付けるプレゼンテーション能力が要求されます。

一番の悲劇は、彼にその能力が欠けていたことです。

 

いくら正しいことを叫ぼうと、世間に聞き入れてもらえなければ(社会的には)価値はないことになります。

男は世間に絶望する前に、プレゼン能力を磨くべきだったのかもしれません。

 

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