【ビジネス】『クラウド時代の思考術』—知識の外部委託による弊害とは
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『クラウド時代の思考術』ウィリアム・パウンドストーン / 訳:森夏樹 / 青土社
京極堂シリーズのどこかで中禅寺秋彦がこんなことを言ってました。
「博識とは知識の多い者のことではなく、
誰に(どの専門家に)聞けばそれを教えてもらえるか知っている者のことだ」と。
セリフの一字一句はそのままではありませんが、大筋としては合っているはずです。
知識が多ければいいってものじゃなく、個人には限界があり、素人がゴチャゴチャ考えたってその道一筋で研究している専門家に及ぶはずがない。君には僕が物知りのように見えるかもしれないが、僕の知人の専門家からしたら浅い知識しかないんだよ。
・・といったシーンだった気がします。
←京極堂シリーズ第4作目。この中だったかな?
この小説では時代は昭和初期~中期あたり(戦中~戦後)なのでもちろんインターネットもスマホもありません。
しかし、知識や情報というのは個人で完結させるというよりも、外部(ここでいうと専門家)に頼る部分もあるという点では同じことです。
今はネットがあり、分からないことがあればすぐに検索して調べることができるので、人々は知識を自分の頭の中に蓄える必要性がなくなってきました。
誰もが意識的にせよ無意識的にせよ、積極的に覚えようという意識が昔よりも希薄になってきているのではないでしょうか。(グーグル効果という。)
たしかに検索をすればすぐに知識や情報は得られるのですが、
人は何かを判断する前に、毎回検索するわけではありません。
むしろイチイチ検索などほとんどしないはずです。面倒ですからね。
自分の中にある有り合わせの知識と直感で決断してしまいがちです。
コーネル大学の心理学教授デヴィッド・ダニングが学生たちに一般常識のテストをしました。そして学生たちに自分で自分の得点を予想し、他の者たちに比べて、自分はどれくらいうまくできたのか自己評価するように言いました。
一番低い得点を獲得した学生は、どれほど自分がよくできたかを大げさに吹聴しました。最下位に近い得点を取った学生たちは、自分の技量を他の三分の二の学生より、一段と優れていると予測していました。
高い得点を獲得した学生たちは、自分の能力をより正確に認識していました。
知識や技術に欠けた者の特徴は、自身の知識や技術の欠損を全く理解(自覚)できないこと。――これをダニング=クルーガー効果といいます。
また、「5人に1人の法則」というのがあります。
アメリカ人の20%(不十分な知識と情報しか持っていない人達)は
・魔女が実在すると信じている
・太陽が地球の周りを回転すると信じている
・エイリアンの誘拐を信じている
・バラク・オバマはイスラム教徒だと思っている
・宝くじは有利な投資だと信じている
・ホロコーストは神話だと思っている(あるいは聞いたことがない)
そうです。
ホントに?! にわかには信じ難い事実ですね。
流石に物を知らなさすぎで、驚きとともに恐怖すら覚えます。
(核爆弾を山ほど抱えているわけですから。)
しかし、アメリカ人を笑うことはできません。
日本人だって同じような現象が起こりつつあります。
クイズ番組でのアイドルやおバカタレントと呼ばれる方達の、回答の間違いが判明するまで崩さない自信に満ちた態度を、今まではネタ(ふざけている)だと思っていたのですが、どうやら本気で自分は正解していると信じているからこその態度だったのかもしれないことに気付きました。
数々の実験により、知識のない人ほど、自分の直感や決断に現実とは乖離した自信をもっているそうです。
愚者は自分の愚かさを自覚できないのです。
陰謀論やフェイクニュースを信じこみ、妄想を妄想だと自分で判断できないからそれが固定観念になって、毎日の行動や発言に現れて、周囲に影響を与えていくという負のスパイラル。この流れは世界中で起こっています。
怖いですね。
なんでも知っている物知りになれとこの本は言っているのではなく、
一般常識すらおぼつかない状態では、日常生活でまともな判断ができなくなることに警鐘を鳴らしているのです。
グーグルやスマホが悪いと言っているのではなく、
自分が物を知らないことを自覚できなくなっていることがマズイということです。
分からなかったら何でも検索したらいいじゃんと思うかもしれませんが、
言葉(知識となるキーワード)を知らないと、それに関連する言葉を検索するという発想にも至りません。
一般常識くらいは持ち合わせていないと、検索材料が不足しているので、不十分な知識しか結局得られないことになります。
まあ、その一般常識も時代によって流動的で、ここまで覚えていればOKとは一概に言えないところが難しいのですが・・・