【小説・ミステリー】『沼の王の娘』―切ないサイコサスペンス【このミステリーがすごい2020・31位】
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『沼の王の娘』カレン・ディオンヌ / 訳:林啓恵 / ハーパーコリンズ・ジャパン
⇧2019年2月16日発売。
『このミステリーがすごい!2020年版』海外編・第31位にランクイン。
<長期誘拐事件>
「ストックホルム症候群」という言葉をご存知でしょうか。
誘拐事件や人質事件などにおいて、犯人と被害者の間に心理的つながりができる現象です。
本来は敵対するはずの両者ですが、被害者が犯人に協力的になったり、解放後も被害者が犯人をかばったりすることがあるのです。
監禁中に犯人が被害者に食事を与えたり、何かしらの便宜を図ったりすると、被害者は感謝の念や好意を持ってしまうそうです。
また、「学習性無力感」という言葉はご存知でしょうか。
誘拐され監禁された被害者は、犯人に自立性を奪われます。
最初は抵抗する意志があっても、いずれ犯人に屈することになります。
抵抗するほど厳罰を受けることになるので、被害者は早いうちに犯人の意向に沿うことを学びます。犯人の指示に従えば、罰を受けずに済みますし、食事や衣服を提供してもらえるので、いくら屈辱的だろうと犯人の言うとおりにしてしまうようになります。
脱出に挑戦するも失敗を繰り返して、犯人に罰を与えられ続けると、監禁されていない状態(つまり脱出のチャンス)になっても、被害者は逃げようという試みを放棄するようになります。
これが学習性無力感です。
この小説ではストックホルム症候群と学習性無力感に陥った少女が、いかにして誘拐犯から脱出したかが描かれています。
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<あらすじ>
主人公・ヘレナには夫と二人の子どもの家族がいました。
ある日、子どもを連れた帰宅時に、車のラジオから「児童誘拐・強盗殺人の罪で終身刑に服していたジェイコブが看守二人を殺して逃亡した」というニュースが流れてきました。
ヘレナは驚愕します。
なんとその犯罪者こそが、ヘレナの父親だからです。
過去にヘレナが警察に通報して父親を逮捕してもらったわけですが、もう10年以上も捕まっていたのに今になって彼が逃亡を図ったことに不安を覚えます。
真っ先に心配になったのはこれからの家族の安全です。
かつて、ジェイコブは14歳の少女を誘拐し、14年間監禁していました。
その間に少女を妊娠させ、生まれた子どもがヘレナでした。
監禁場所は深い森の中にある小屋です。
電気もガスも水道もありません。
ヘレナは他の世界を一切知らずに、そこで12歳まで暮らします。
ネイティブアメリカン(インディアン)の暮らしや生き方に憧れるジェイコブは、森の中での狩猟のやり方や泳ぎ方、雪中での歩き方、ナイフの研ぎ方、ウサギの皮の剥ぎ方、靴のヒモのむずび方などのサバイバル術をヘレナに教えました。
ジェイコブは自分の言うことに忠実に従っている分には、いい父親だったのです。
しかし少しでもヘレナが反抗の意志を示そうとすれば、ひどい体罰を与えられます。
それによって死にかけたことは何度もありました。
ヘレナは他に友達もいないし比較する家族も知らないので、自分の父親がひどいことをしているとは思いませんでした。
そして父親の元を去ってから10年以上が経過しました。
父親の目的が何であれ、自分の家族に手を出すことをヘレナは許しません。
森の中の逃亡ならば警察はジェイコブに敵わないと判断したヘレナは、家族を安全な場所に避難させてから、一人で父親を追うことを決意します。
父と娘のサバイバル対決が始まりました。
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<まとめ>
深い森の中での過去のヘレナの生活が前半から中盤に渡って描かれ、
父と娘の実際の対決は、物語終盤に行われます。
父を恐怖しながらも敬愛もしていたヘレナの葛藤が描かれます。
ひどい生活だったにもかかわらず、12年間も面倒を見てもらったという事実が父を憎みきれない理由になっています。
父を追いかけながら、ヘレナの様々な思い出が回想されます。
父の機嫌を損ねないように毎日気を使いながらも、父に認められたいと努力して生きてきたこと。
父親から脱出してからは社会生活になじめず、学校の勉強に意味を見出せないこと。
彼女の苦しい境遇は彼女のせいではないのに、彼女の価値観が特殊すぎて誰も共感できないから助けられません。
長期間の誘拐監禁は、人格形成に大きな弊害になったのです。
結局父親を捕まえたいのか、会いたいだけなのか、殺したいのか、認めてもらいたいのか、ヘレナは自分でもよく分からないまま父親と対決します。
切ないサイコサスペンスです。
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