【小説・文学】『ニムロッド』―皆で不安になろう
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『ニムロッド』上田岳弘 / 講談社
⇧2019年1月発売。
第160回芥川賞受賞作です。
『1R1分34秒』の町田良平さんと同時受賞でした。
<仮想通貨のマイニング>
あなたは「サトシ・ナカモト」をご存知でしょうか?
仮想通貨について少しでも調べたことがある方なら誰もが知っている有名人ですが、その正体は誰も知りません。
男性かどうかも、日本人であるかどうかも分かっていません。
彼は2008年頃からビットコインに関する論文を発表し始めました。
2009年にはビットコインのソフトウェアを発表し、運用が開始されました。
仮想通貨はブロックチェーンという技術で支えられています。
仮想通貨は、取引記録のすべてがネットワーク上に分散されて保存されています。
オープンになっているから誰でも記録を見ることができます。
新しい取引データは一つのブロックにまとめて、過去の取引データに繋げて保存していきます。(これをブロックチェーンといいます。)
ビットコインを入手するには、
取引所などで誰かから購入するか、
マイニング(=採掘)によって新規発行コインを受け取るか
の大きく二つの方法があります。
マイニングとは既存のブロックチェーンに新たなブロックを付け加えることです。
マイニングをする人をマイナーと呼びます。
有力なマイナーたちの正体は、現在ではマイニング専門の企業です。
マイニングには膨大な計算と莫大な電気代がかかるから、個人で対抗することができないのです。
しかし個人でできないわけではありません。
専用のソフトウェアを使えば、世界中の誰でもマイニングを行うことができます。
ただ利益が出にくいだけです。
採算を考えないなら可能だという話です。
あと、採掘難易度も上がってきているので、ソフトウェアの機能を向上させ続けないと採掘量は減っていくことにも注意が必要です。
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<あらすじ>
この物語の主人公は中本哲史(ナカモトサトシ)。
ビットコインを創ったとされる人物と同じ名前です。
彼はサーバーのデータセンターに勤務していました。
普段はサーバーのサポート業務(不具合に陥ったユーザーの対応)をしています。
ある日社長から、会社の余剰サーバーを使ってビットコインのマイニング業務を担当するよう指示されます。
余剰サーバを使わないでいるのはもったいないので、有効利用のためにダメ元でやってみろというわけです。
中本は適当な専用ソフトウェアをインストールして、恐る恐るマイニングをやってみることにしました。
そして土日も休まずフル稼働させた場合、1ヶ月で20万円の利益が出せることが分かりました。(採掘難易度は考慮されていません。)
1年先輩で別の支社で働く荷室(ハンドルネーム:ニムロッド)は、中本の友人です。
彼は不定期に無駄な飛行機コレクションと題したメールを中本宛に送ってきます。
帰還できないよう作られた特攻機や、
鳥を模して作られたが実際に飛行できずに墜落したものや、
動力に原子力を採用して乗組員の被爆防止のために防御壁を厚くせざるを得なくなって、重量が大きくなり過ぎた飛行機などです。
荷室は過去に鬱病で休職していた時期がありました。
それまでは自作の小説を新人賞に応募して3回ともダメだった経験があり、復職した今では、応募は諦めて中本に見せるためだけに文章を書く毎日を送っています。
彼らのつかみどころの無いフワフワした生活が描かれていきます。
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<自分の仕事への疑念>
中本の彼女は外資系企業に勤め、大手製薬企業の買収案件に成功してボーナスが入ろうという段階でしたが、自分の仕事に何か意味があるのかという疑念を持ち始めていました。
中本はビットコインのマイニングで多少の報酬を得ましたが、思ったほど儲からないという社長の判断で、マイニング業務は結局取りやめになってしまいました。
荷室は応募するわけでもない小説を書き、誰に見せることもなく作品を金庫にしまうことを目指すようになりました。
(『ライ麦畑でつかまえて』で有名な J・D・サリンジャーも晩年はそういう生活をおくっていたそうです。)
3人とも自分のやっている仕事(やってきたこと)は、無駄(無意味)だったのではないかという疑念とそこから来る虚無感を抱えて生きています。
なんでも揃っている現代社会に生きる人々がかかる病の一つですね。
治療薬はあるのでしょうか?
この小説を読んで、皆で不安になりましょう。
それが文学の価値です。
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