【マンガ】『不滅のあなたへ』(1巻)—孤独な旅ー完璧な第1話
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『不滅のあなたへ』大今良時 / 講談社
あの伝説の衝撃的マンガ『聲の形』の著者・大今良時氏による次の作品です。
『聲の形』でも十分、絵が上手かったのですが、さらに上手くなっておられます。
<完璧な第1話>
連載マンガの第1話はどれも一番力が入っているものです。
読者に食いついてもらわないといけないので当然です。
第1話は連載ペースを考えないで時間をかけて描けるのも大きいですね。
第2話からは連載スピードに合わせたクオリティと規定のページ数で、なんとか仕上げていくしかないものですが、第1話だけは多めにページが使われている(80p)ので、ストーリーも比較的余裕をもって描くことができます。
僕が勝手に呼んでいるだけですが、連載マンガには「完璧な第1話」というものがあります。
キャラクターも立っていて、世界観も上手く説明されていて、ストーリーも見事にまとまっていて、作者の言いたい事やりたい事が全部つまっているかのような話・構成のものです。
完璧すぎて、第2話以降がもはやエピローグとして捉えてしまってもいいかのような、作品が第1話で完結しても全く不自然じゃないようなものです。
別に2話以降がつまらないのでは決してなく、第1話がすごすぎる完成度なのです。
『EDEN』(遠藤浩輝)の第1話がその代表例だと思います。
↑謎のウイルスのよって人類が激減した世界を描いたSFです。
そして、この『不滅のあなたへ』の第1話もすごい完成度です。
<あらすじ>
謎の「球体」がこの世界に投げ込まれました。
球体は身近なもの(触れたもの?)の姿形をコピーして自らを変化させていきます。
球体 ➡ 石 ➡ 苔のついた石 ➡ オオカミ へと変化します。
オオカミとなった後は、何もない雪だけが積もった大地を歩きます。
そして、ある小屋を見つけます。
そこでは少年がオオカミを待っていました。
少年のオオカミは2か月前にいなくなって帰ってこなくなってました。
途中でオオカミは死んでしまったのですが、球体がそのオオカミをコピーして小屋に戻ってきたので、少年は本物が帰ってきたと勘違いします。
少年が今住んでいる場所にはかつて大人たちもいたのですが、食糧が手に入らないので5年前に探索の旅に出たきり戻ってこないままです。
少年は一人きりで、5年間小屋で暮らしてきました。
(一人分の食糧くらいは入手可能。)
5年前の少年は小さくて連れて行ってもらえなかったという話ですが、一人で残されたことを考えると口減らしだったのではないかと思います。
しかしそんなネガティブ思考に陥ることなく、少年はいよいよ皆が向かった所へ自分も旅に出ようと決意します。オオカミを連れて。
旅の途中に矢印が記された石を発見し、行き先に希望を見出すも、川の氷を踏み抜いてしまって足に大ケガを負ってしまいます。
旅を断念し、小屋に戻ってきますが、ケガが悪化して少年は死んでしまいます。
オオカミは少年の姿をコピーして旅を続けます。
<旅の物語>
少年の希望、絶望、期待、哀しみ、一つ一つの表情が非常に上手い。
少年が一人で話しながら何もない雪原を旅しているだけなのに、読者を一切飽きさせない画面の迫力、緊張感。
少年の意志を受け継ぐかのように旅立つオオカミと、ラストの1コマの少年の死に顔。
完璧です。
完璧な第1話です。
この先も、球体は様々な外部刺激を受けてその姿を変更していくのでしょう。
しかし球体の目的や正体などどうでもよくなるくらい、過酷で孤独な少年の生き様が鮮烈でまぶしい。
たった80ページですが、読者は長い長い旅をしてきたかのような、深い感慨を覚えることでしょう。
これは球体の旅の物語でもありますが、球体が訪れた先の人々の物語でもあります。
第2話からは舞台が変わって、弥生時代の村のような集落で、生贄の儀式が行われます。生贄の子どもは逃げ出し、その先で(コピーされた)少年と出会います。
少年のせいで儀式はメチャクチャになってしまうのですが、この先のストーリーがどこへ向かおうとしているのか全く予測できません。
著者はどうやら、作画だけでなく、ストーリーテラーとしての真髄をも極めてしまったようです。
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