【小説・SF】『犬の心臓』―ロシア風「アルジャーノンに花束を」
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『犬の心臓』ミハイル・A・ブルガーコフ / 訳:水野忠夫 / 河出書房新社
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<あらすじ>
雪が降る極寒の冬。ロシア革命が終わった頃(1920年くらい)。
モスクワでは未だ人々は困窮していました、
人間だけでなく、道端を歩く野良犬もまた同様に、その日の食糧を求めて街をさまよっていました。
犬はゴミ山をあさって、食べ物の切れ端だけでもいいので、とにかく何かを食べないと死んでしまうほど腹を空かせていました。飲食店の人間に(追い払う目的で?)熱湯をかけられて、腹に火傷を負ってしまいます。
力が抜けて立つことが出来なくなった犬は、人間や社会環境への呪詛を念じながら、絶望の中で生存を諦めかけます。
そこである紳士と出会います。
紳士はソーセージの切れ端を与えてくれたのです。
食べ物の匂いにつられて、犬は紳士に付いて行きます。
なんと紳士の家に招き入れられ、ちゃんとした食べ物を与えられます。
犬は感謝し、紳士に生涯の忠誠を誓うほど感激しました。
紳士はその後も、犬を家に居させてくれて、限界だった犬の体力は回復していきます。
こんな素晴らしい人間が存在するのかと、犬は紳士を神のように崇めます。
紳士を信頼しきった犬は、ある日、手術室に連れて来られます。
紳士は医者であり、若返り法について研究もしていました。
その日、浮浪者?の死体が入手できたので、その人間の脳下垂体を犬に移植するという手術を施します。
手術は成功し、犬は時間が経つとともに脱毛していき、二本足で歩くようになり、人語を解するようになり、ついには言葉を話すようになります。(見た目もほぼ人間に。)
この展開には、医者である紳士も予想外でした。
<アルジャーノンに花束を>
ダニエル・キイスの名作『アルジャーノンに花束を』をご存知でしょうか。
大人になっても幼児並みの知能しかなかったチャーリィが、手術を受けて知能が徐々にアップしていき、色んなことが理解できるようになったのですが、知能向上は一時的なもので、徐々に知能が低下していくという話です。アルジャーノンはチャーリィの対照実験に使われたネズミの名前です。
チャーリィは社会の欺瞞に気付いて多少シニカルになる部分もありましたが、おおむね上品に知性が向上しました。
しかし、この『犬の心臓』では、野良犬(シャリクと名付けられる)は、知性は向上しても、品性は獲得できませんでした。
シャリクは、家の中に猫が歩き回っていたら我慢が出来ずに追いかけまわし、暴れた末に、家の水道管を破裂させていまいます。
犬のときに寝そべっていた場所で寝ようとします。
隣の部屋に住んでいる女性に飛びかかって噛みついたりします。
食事のマナーは悪いし、酒やタバコはやたらと摂取したがります。
満足に食事のマナーも知らないのに、本を読んで覚えたての社会主義について、偉そうに講釈をたれて来ます。
移植した元の人間の性格だったのか、粗野な話し方で、礼儀を知りません。
とにかく毎日、何らかの面倒事を持ち込み、周りの人間たちをうんざりさせ、イライラさせています。
そんなことばかりしてると、もう養わないぞ、家から追い出すぞと脅したら、
シャリクは紳士を「反革命的思想の持ち主」とか「反革命的行動」をしているとかで、密告して裏切ります。
教育をしてももはや手がつけられないと判断した紳士とその助手は、シャリクを再手術を施すことを決意します。
シャリクの行動や発言、あるいは存在そのものが、当時のロシア社会の強烈な風刺になっていて面白いです。(単純にSFとしても奇抜で面白い。)
ロシアで長らく発禁処分を食らっていたのも、分からなくもない過激さです。
日本人から見たら、ユーモア感覚が抜群の作家としか思えないのですけどね。
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