【マンガ】『アオアシ』(13巻)ー考えることを諦めるな
『アオアシ』小林有吾 / 小学館
本日新刊発売。
今一番ハマっているサッカーマンガです。
このマンガの特徴の1つとして、舞台がユースであるということ。
部活ではない。プロでもない。
プロを目指す若者たち(高校生の年代)がどうやって成長してプロになっていくのかという、あまり知られていないクラブチームという業界(組織?)のしくみが分かって面白い。
そして最大の特徴である作品の魅力は、主人公アシトの「視野の広さ」とその能力の開花していく過程の描き方である。
いまだかつて、サイドバックの主人公なんて(たぶん)いなかった。
奇をてらってそうしているわけではなく、きちんと理由が説明されてあり、
もはやこの形しかなかったのではないかと思わされるほど、説得力があり、自然で納得ができ、しかも面白いというストーリー構成になっている。
13巻では、ついにAチームへ昇格を果たしたアシトが公式戦に出場する。
今までさんざん嫌がらせしてきた阿久津がしぶしぶ指示を出す。
栗林はその悪魔的な天才性を発揮し、アシトを驚愕させる。
先輩2人の圧倒的な技術、経験値、才能に触れ、アシトも覚醒し始める。
アシトの最大の才能は、自分が未熟だということを受け入れ、それでもそこから何が出来るかを考えることを諦めないことだ。
ライバルや敵と自分との間に圧倒的な技術・才能の差があるのだと分かったとき、人は絶望し、思考停止してしまう。そして成長は止まる。
考えることをやめない者だけが、強くなれる。上手くなれる。
この3人が完璧に機能するようになったらどんなチームになるのだろう。
ワクワクが抑えられないほど楽しみです。
14巻は8月末発売予定。
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【小説・ミステリー】『詩人と狂人たち』―こんな謎解きの仕方って許されるのか?
『詩人と狂人たち』G・K・チェスタトン / 訳:南條竹則 / 東京創元社
短編集です。
同じ主人公が毎回事件を解決する探偵モノ。
こういうキャラクターでミステリーを書こうとした著者の発想がすごい。
もちろん毎回、犯人はどこか狂っていてまともじゃない発想や行動をする。
よって、結果として現れる事象が常人には理解できない。
しかし主人公(探偵役・実際はただの詩人)もまただいぶ発想がぶっ飛んでいて、
それがゆえに犯人の思考や行動が理解できるのだ。
王道ミステリーのように、物証やトリック、アリバイといった視点からは一切考えず、
犯人はどういう動機、思考回路のもとでそういう行動をするに至ったのかを推理(というかほぼ断定)し、解説してくれる。
この本は、本格ミステリー(作品内で事前に提示された手がかりだけで、読者が犯人を論理的に導き出せるもののこと。手がかりが不十分だったり、可能性がすべて検証されていなければアンフェアとなり、「本格」とはみなされない。)とそれに準ずるものしかミステリーとして認めないという「本格ミステリー原理主義者」の方々には噴飯ものだろう。
僕は「面白かったら別になんでもいいやん」というスタンスなので
ミステリー枠に入れました。
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【小説・ミステリー】『ドグラ・マグラ』―読後に気が狂わずにいられるか
『ドグラ・マグラ』夢野久作 / 角川書店
日本三大奇書の一つ。
他の『虚無への供物』と『黒死館殺人事件』はあまり書店で目にする機会がないかもしれませんが、『ドグラ・マグラ』はどこでもあります。
角川・夏の100冊フェアに毎年セレクトされているので手に取りやすい?といえばそうなんですが・・・
表紙が若干アレなので、書店でレジに持っていくのが恥ずかしいかもしれません。
ページ数もさほど多くなく、平均的な本よりも薄めです。
でも僕は読むのに1ヶ月かかりました(;^_^A)
文体自体はそこまで濃密なわけではないのに、内容と雰囲気が濃密すぎて1ページたりともサラッと読めない。
「この世に唯一無二の小説は、ページ数にかかわらず、サラッと読むことなんて不可能なんだぜ。生ぬるい小説ばかり読んでんじゃねえ」と諭された気持ちになります。
精神病院内での患者?と博士との話です。
読者は、一体何が真実で、誰が本当のことをしゃべっているのか分からなくなってくるのです。
よくもまあこんな作品を描ききったなと驚嘆しました。
著者自身は気が変にならなかったのだろうか?
一筋縄ではいかないので、それなりの覚悟をもって読まないと途中で挫折してしまうかもしれません。
社会人はまとまった時間が取りにくいので、学生時代に読んでおくのがオススメですよ。
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【小説・SF】『エデン』―どうしたレム?
『エデン』スタニスワフ・レム / 訳:小原雅俊 / 早川書房
オマハの賢人といえばウォーレン・バフェットですが、
クラクフの賢人といえば、そう、スタニスワフ・レムですね。
ここ10日間くらいかかって読み終えました。
古本屋でレムの未読の青背(早川文庫のSFのこと)を見つけたので買いました。
レムを初めて読んだのは『完全な真空』と『虚数』でした。
これは「架空の本に関する書評集」というどんでもない発想のSFというか現代社会評論なのです。そのときから、この著者は天才だという印象が植え付けられたまま今日に至ります。
『ソラリス』を読んだときも「さすがやで!天才レム」と認識は変わらず。
つまり期待値が上がりすぎている状態で『エデン』を読んだわけです。
「あれ?案外普通のSFやんか。どうしたレム?」というのが第一印象でした。
まあどんなものでも、期待値が上がりすぎている状態で見ちゃダメってことですかね。
映画『君の名は』も、話題で期待値が上がりまくった状態で観たので肩透かしを食らった気分を味わいました。
巻末の解説によると、作品の発表順としては
『エデン』→『ソラリス』→『完全な真空』→『虚数』みたいです。
僕が読んだ順番と全く逆!
失敗した~!!
そりゃインパクト弱くなっていくわ。
まあでも中盤までは普通でしたが、
後半は宇宙での知的生命との接触と考察がなされていて面白い。
そもそも50年以上前に発表されたのだから、テクノロジー的な知見や考察に期待して読もうとする方が間違いなのかも。
「50年前にここまで考えられる人が存在していたんだぜ」という視点で読むのが面白い。
ニュートンの『プリンキピア』を現代人が読むような感覚で。
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【マンガ】『ONE PIECE』 (9巻)ー1番泣いてしまう巻
『ONE PIECE』尾田栄一郎 / 集英社
アーロン編というかナミの過去編です。
何度も読んでいるのに、展開が分かっているのに泣いてしまう巻でもあります。
なんで?バカなの自分?
・・とも思いますが、これはもう仕方がありません。
この巻を読んで何とも思わない人は心が腐っていると断言できます。
これまでナミは独りで何と闘っていたのか。
何を独りで背負って来たのか。
何を守りたかったのか。
何のために生きてきたのか。
金品や財宝にがめつかった理由が明かされます。
しかし強大な力の前に、独力ではどうにもならない事態となり泣き崩れます。
誰にも頼らずにここまでやってきたナミが最後に頼ったのは、
つい先ほど裏切って金を盗んできた元仲間でした。
事情を知らずに客観的に見れば、「なんて都合のいい勝手な女なんだ」と普通は思ってしまいますよね。
仲間たちもその時点では事情を深く知りません。(ウソップは除く)
しかし、彼らは「助けて・・」という声に応えます。
「当たり前だ」と。
カッコよすぎでしょ!
こんな仲間が欲しいと多くの読者が思ったことでしょう。
けれど、何もしなければ仲間は出来ない。
次の10巻でウソップが言っているように、
自分が限界まで本気でやっているから、生命を賭けてやろうと頑張っているからこそ本物になれる。仲間に助けてもらえる。
アイツらに自分も仲間だと言うことができる。
胸を張って生きていける。
アーロン編は、いつも弱い自分を叱咤してくれます。
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【小説・伝記】『花埋み』―ななみんが紹介してました
『花埋み』渡辺淳一 / 新潮社
2016年10月末以降。
乃木坂46の橋本奈々未さんが「恋する文学」で北海道にまつわる小説をいくつか紹介されていました。その1つが『花埋み』です。
著者である渡辺淳一氏は伝記作家の一面もあったのだということをこの時知りました。
日本初の政府公認女医(医学試験合格)の荻野吟子の伝記です。
10代半ばで夫に淋病をうつされて離婚し、それから医者になろうと勉強するも、周囲や社会の女性差別の妨害から、中々受験や医学校入学までの道が開かれない。才能は十分あったのに。
正直、ここまで嫌味を言われたり妨害されたりすれば、心が挫けて誰もが諦めるだろう。耐えるだけでもしんどいのに、社会の慣習や規制、偏見を変革していかないと医者になることはできない。
現代日本では考えられないほど「医者になるためのハードル」が高い。
このバイタリティ。見習いたい。
ようやく34歳のときに合格して女医になるも、社会・大衆の貧しさによって、単純に診察していればよいわけではないことを悟る。(当時は多くが貧困に喘いでいた。)
女医の傍ら、女性の地位向上のために社会運動にも参加。
絶望感からかキリスト教に入信し、13歳も年下の男と結婚。
大言を吐く夢見がちな夫についていき、北海道の未開拓地に移住する。
なんという行動力、波乱万丈の人生だろう。
自分とは全く違った人生を送った方の伝記は、性別、人種、時代にかかわらず非常に面白いし興味深い。
一人の人間には一生しか生きることはできない。
こういう優れた伝記を読むと、もう一生分生きた感覚を味わえる。
この本を教えてくれたななみんに感謝いたします(^0^)/
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【小説・純文学】『火花』―一流の芸人はここまで考えて生きているのだ
『火花』又吉直樹 / 文藝春秋
お笑い芸人・又吉直樹氏が芥川賞を取った作品です。
一流の芸人(売れている芸人とイコールの意味ではない)は、「ボケ」や「笑い」について毎日ここまで考えて生きているのだと教えてもらえる小説。
純粋な面白さだけを追求すると万人ウケしないので売れない。
テレビに出たり、売れたりするにはお客さんとのバランスが大事で、芸や思想だけを磨いても自己満足で終わってしまうことが多い。
自分の面白さが一番譲れないのなら、時流にそぐわなくてもそう生きていくしかないし、売れたいのが一番優先したいことなら、お客さんにウケるにはどうするべきかという視点を忘れてはいけない。
お笑い芸人という生き方は、あまりにもリスクが高い。
成功者とそうでなかった者との落差がありすぎる。
(高低差ありすぎて耳キーンなるわ ©フットボールアワー後藤氏)
深い絶望と哀しみを抱えつつ、今日も誰かを笑わせようと苦悩している。
純文学ですね。
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【小説・ミステリー】『白夜行』―著者最高の出来
『白夜行』東野圭吾 / 集英社
東野圭吾作品は当たり/ハズレが大きい。
『パラレルワールドラブストーリー』や『宿命』はオススメできるが、
『探偵ガリレオ』はドラマとは違って面白くない。
そんな中、ダントツで面白いのが『白夜行』である。
800ページ超という長さがあるが、それが全く苦にならないほど読みやすく、リーダビリティがある。(このページ数を1日で読めたのは、後にも先にもこの作品だけです。)
ある少年と少女の別々の人生の歩みを交互に描いていくだけ(それでも十分面白い)だと思いきや、恐るべき背景がラストに分かるという構成。
一応ミステリーというジャンルに大別されるのだろうが、
フーダニットというわけでもないし、ハウダニットがメインというわけでもない。倒叙型ともいいにくい。すごい物理トリックがあるわけでも、叙述トリックが仕掛けられているわけでもない。恋愛小説と言えなくもない。
見たことがない形式。なんなんだコレ。
すごいとしか言いようがないラスト。
シンプルなのにすごい。
シンプルだからこそすごい。
分かりやすく一般大衆ウケもするし、ミステリーにうるさい人もうなるような構成になっている。
大ヒットを運命づけられた傑作。
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【マンガ】『ベアゲルター』(1-3巻)―超S級の殺陣に惚れる
『ベアゲルター』沙村広明 / 講談社
レジェンド的存在『無限の住人』の著者による、三つ巴の女主人公達のバトルアクション。
沙村氏の画力が天才的なのは周知の事実として、
アクションシーンの構成とカメラワークが最高にカッコイイ!
何度生まれ変わっても、こんなの思いつかないだろう。
唯一の難点はコミックの新刊発売ペースが遅いこと。
『HUNTER×HUNTER』より遅いかもしれない。
1年に1冊出るかどうかというレベル。
そろそろ4巻出てもいい頃だと思うのですが・・・
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【マンガ】『ラジエーションハウス』1-5巻ー見えない病気を見つける職業
『ラジエーションハウス』モリタイシ / 集英社
祝!月9ドラマ化。(2019年4月~スタート)
主演は窪田正孝さん。ヒロイン役は本田翼さん。
モリタイシさんは、あの青春柔道部ギャグマンガ『いでじゅう』の著者です。
今度は「放射線技師」にまつわる話です。
<あらすじ>
主人公は医師免許を持った放射線技師・五十嵐唯織(いおり)。
彼が幼馴染の放射線科医である甘春杏の勤める病院に採用されるところから物語は始まります。
彼は子供の頃にした杏との約束(放射線技師として医者の杏を支える)のために、医師免許を所持していることを周りに隠して一放射線技師として振る舞おうとします。
アメリカで最高峰の教授からお墨付きをもらうほどの診断能力をもつ彼は、その圧倒的な知識と技量によって、良くも悪くも病院内で目立つ存在となります。
最初はオドオドして挙動不審だったために、杏に気味悪がられていた彼ですが、その実績を認められて次第に頼られるようになってきました。
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<放射線技師のあれこれ>
『いでじゅう』と同様に、絶妙なギャグとデフォルメ具合、感情表現が豊かなキャラクターの表情、集団コントのような魅せ方が相変わらず上手いです。
あとは「デンスブレスト」という、まだ日本でも浸透していない(?)乳がんの本当のリスク情報も描かれていて勉強にもなります。
放射線技師はただ撮影しているだけではありません。
彼らがいなければ、放射線科医は診断を下せないのです。
作中で、「死にたくなければ(技術、知識、異常を見逃さない観察力を持っている)優秀な放射線技師のいる病院を探せってことだ」というセリフがあります。
どんなに優秀な医師でも、撮影が下手だと病気を発見できないからです。
有名医師のいる病院はネットで検索したら探せるけれど、
優秀な放射線技師のいる病院なんてどうやって探せばいいんでしょうか?(;^_^A
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