【小説・ミステリー】『朝が来る』―子供を取り返すため実母が養母を脅迫?【2020年6月映画化】
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『朝が来る』辻村深月 / 文藝春秋
⇧2018/9/4 に文庫版が出ました。
2020年6月5日~映画公開されます。
監督は河瀬直美さん。主演は永作博美さんです。
他に井浦新さん、蒔田彩珠さん、浅田美代子さんなどが出演されます。
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【小説】『朝が来る』/ 子供を取り返すため実母が養母を脅迫?【2020年映画化】
<特別養子縁組について>
「特別養子縁組」という制度をご存知でしょうか。
実母が様々な事情で育てられない子供を、別の家庭で養育を受けられるようにするために設けられた制度です。
普通の養子縁組の場合、戸籍上、養子は実親と養親の2組の親を持つことになりますが、「特別養子縁組」の場合は養子は養親の子どもという位置づけになります。
つまり実母は親族関係ではなくなるのです。
養子と養親のマッチングのために、児童相談所や民間斡旋業者が仲介役を担っています。
養子の斡旋にかかる費用は、養親側が負担する必要があります。
養親になるためのややこしい手続きや、厳しい審査もあります。
また、養子は6歳未満で、養親は原則25歳以上でなければならないという法律もあります。
養親の年齢の上限は民法上はありませんが、斡旋業者は大体40~50歳くらいまでと決めているようです。
それ以上の年齢の養親だと、子どもが成人するまで健康でいられない可能性が高くなるからです。(※子どもが20歳のとき、養親は70歳になる)
つまり安定した収入と、長期間子どもを養育できる環境をすでに持っている夫婦だけが、養子を受け入れる資格があるとみなされるのです。
特別養子縁組では、基本的には実母は養親の情報を詳しく知らされないそうです。
子どもの受け渡し後にトラブルが起きないようにするためです。
とはいえ実母に連絡先を知らせることを、斡旋業者に許可する養親もいるようです。
この小説もそのパターンです。
決して交わらないはずの実母と養母が6年ぶりに再会し、子どもを巡って対立します。
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<あらすじ>
主人公は47歳の主婦・栗原佐都子。
彼女は結婚してしばらくは、子どもを産みたいと強く思っていたわけではありませんでした。
しかし30代後半になり、妊娠のタイムリミットを心配する母のすすめで病院に行ってみたところ、不妊治療を始めることになりました。
もともと佐都子は、定期的なリズムで生理がやってきたことはありませんでした。
だから基礎体温を測ったり、薬を飲んで生理周期を安定させることから不妊治療は始まりました。
ある日、佐都子は病院の医師に夫も連れてくるよう言われました。
渋々付いてきた夫に検査を受けてもらい、その結果、夫が閉塞性無精子症だと判明しました。
子どもがなかなか出来なかった原因は、佐都子だけではなく夫にもあったのです。
それから佐都子たちは体外受精に挑みますが、努力が実を結ぶことはなく、その虚しさから一旦は子どもを持つことを諦めました。
そのすぐ後、佐都子たちはテレビで「特別養子縁組」という制度を知りました。
そして説明会で実際に養親になった人達の話を聞くうちに、そういう親子関係もアリなんじゃないかと希望を見出し、養子斡旋業者に登録することにしました。
子ども(0歳)は1年も経たずにやって来ました。
佐都子たちは子どもを朝斗(あさと)と名付けました。
朝斗の実母の片倉ひかりは、当時中学生でした。
ひかりは養親にお礼を言いたいと希望していたので、佐都子は顔合わせをすることにしました。
そのときに佐都子は朝斗をしっかり育てていくことを、ひかりに誓いました。
そして6年が経過し、6歳の朝斗は今では佐都子と夫を慕い、元気に幼稚園に通っています。
ある日、佐都子の家に「片倉ひかり」と名乗る人物から電話がかかってきました。
「子どもを返して欲しい」という内容です。
「なぜ6年も経った今になって?」と佐都子は片倉の真意を図りかねました。
さらに片倉はこう言いました。
「それがもし嫌なら、お金を用意してください。そうすれば諦めます。
私のこと、バレたら色々困るんじゃないですか。
用意してもらえないなら、私話します。あなたの周りに。
あの子の学校にも、ご近所にも、もちろん本人にも。」
つまり片倉は脅迫しているわけです。
もちろん佐都子に朝斗を手放すつもりはありません。
彼女は片倉と話し合うために、自宅で片倉と会う約束をしました。
しかしやって来た片倉は、6年前に顔合わせした「片倉ひかり」とは、外見や言動や朝斗に関する知識が別人としか思えないものでした。
(※朝斗の年齢が正確に分かっていなかった)
果たして、片倉と名乗る女は、6年前に朝斗を育てると約束した片倉と同一人物なのでしょうか。
そして、片倉の本当の目的は何なのでしょうか。
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<まとめ>
特別養子縁組によって0歳から子どもを育てた佐都子と、中学生で妊娠してしまったために子どもを養子に出すしかなかったひかりの、二人の視点で物語は進みます。
前半は、佐都子の不妊治療の挫折と、朝斗を迎えてからの苦労が描かれます。
後半は、ひかりが妊娠した後の苦しみと、出産後の生活について描かれます。
一人の子どもによって絶望的な状況になっていく女と、一人の子どもによって希望を見出した女との、人生の対比が見事です。
養母側にも実母側にも共感できるという、不思議な感覚が味わえます。
少々長めのページ数ですが、語りが上手いので、中だるみせず一気に読まされます。
ミステリー的な手法で描かれているので、ラストまで気が抜けません。
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