【小説・ミステリー】『チュベローズで待ってる』—他人に思考を預ける生き方は不幸なのか
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『チュベローズで待ってる』加藤シゲアキ / 扶桑社
←前編 ←後編
著者はアイドルグループNEWSのメンバーである加藤シゲアキさんです。
『このミステリーがすごい!2019』でランキングには入らなかったものの、大森望氏に推薦されていたので読んでみました。
上下巻(2冊)に分かれていて、上巻で主人公・光太が22歳のときを、下巻で32歳のときを描いています。
面白い構成ですね。下巻の方がブ厚めです。
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<あらすじ>
どこからも内定がもらえず、就職浪人が決定した光太が、ホストクラブ・チュベローズでNo1の雫(男です)にスカウトされるところから物語は始まります。
光太の家族は父親が亡くなり、母親は体調が悪く、妹は小学生で、生活が経済的に困窮していました。就職できなかったし、とりあえず来年新しい仕事が決まるまでのつなぎとして、家族の生活費を稼ぐためにホストになることを決意します。
ある日、自分がかつて受けた採用面接の面接官であった一人の女性(美津子)が客としてやってきます。その面接では、光太はうまく出来たと思っていたのでなぜ落ちたのか不満でした。
美津子は他の面接官は光太の採用に傾いていたが、自分が反対して不採用にしたと告白します。
そして、就職できなかったが故に、光太が今ホストクラブで働いていることに罪悪感を抱きます。謝罪の気持ちから、光太がクラブ内で順位を上げるために協力する(頻繁に通う)ことを約束します。(順位が上がれば給料が高くなる。)
同時に、もう一度来年採用試験を受けてくれるなら、そのときは落とさないように働きかけると言います。そして、時間が空いたときに、インターンシップや面接の心得を指導していきます。
ついに内定が取れたところで、美津子は自殺してしまい、ここで上巻が終わります。
いいところで切りますね。
無事に就職できたゲーム会社で、10年でそこそこ優秀な業績を上げて、次回作のために子会社に出向してくるところから下巻は始まります。
間に妹の失踪事件や、ライバル会社の流したデマによる風評被害事件やらありますが、現在の上司であり、かつての面接官だった八千草と美津子の間で何があったのかというのがメインの謎です。
美津子の企図した復讐が、八千草への仕返しになっていない気がするのですがスルーします。(何をもって復讐となるかは、本人が考えることです。)
八千草が美津子を罠にハメたのは出世のためだったとしたら、ありきたりで単純すぎて面白くないところでした。
しかし真相は、八千草の精神的性質のためでした。
八千草には兄がいて、弟はその指示に従って生きてきたというもの。
二人一役というのは、ミステリーでよくありますね。
この作品ではテクノロジーを使った、現代的トリックになっています。
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<他人に思考を預ける生き方>
弟は、先天的に他人の意図がくみ取れないことで悩んでいました。
兄は、先天的に顔に腫瘍があり、整形してもその醜い容貌からいじめを受けて引きこもりになって生きてきました。
ある日、弟が兄に「もう悩みたくないから、自分の思考や発言を全部指示してくれ」と頼みます。イヤホンとゴーグルを弟が着けて視界を共有し、兄からの指示を実行して社会で成功していきます。
「そんな生き方はおかしい」と光太は短絡的に否定します。
自由な意志で生きていない、と。
果たして、本当におかしいのでしょうか?
八千草兄弟は、それぞれ一人では満足に社会生活を営めませんでした。
二人が協力することで、足りない部分は補い合って、大きな会社で出世してかなりの地位まで辿り着くことができました。
お互いに、満足感も充実感もあったはずです。
『デスノート』でのニアの名セリフを思い出します。
ニアとメロ。それぞれに欠点があり個人では「L」に届かないし敵わない。
けれど
「二人ならLに並べる。二人ならLを超せる」
力を合わせれば、大きな成果を出せる。
幸せの形は人それぞれです。
他人の生き方を簡単に否定する奴は、考えが狭すぎるのです。
「あいつの人生はかわいそう、不幸だ、ついてない、変だ」なんてことは、
誰にも言えないはずです。
相手の人生を半分だって知りもしないくせに。
多くの読者は主人公・光太に共感するのでしょう。
(そうなるように著者は書いているのだから当然のなりゆきです)
しかし僕は、気付けば八千草兄弟に共感し、応援する読み方をしていました。
光太に対しては、「知ったような口を叩くなよ!」と敵視しながら読んでいました。
せっかく著者が感動(?)のラストを用意してくれているのに、僕のような読み方をすると消化不良感が残ります。
単純に主人公目線で感動したい方は、僕のひねくれた読み方はあまりオススメできません。(^-^;)
『るろ剣』で剣心よりも志々雄を応援してしまったアナタは、僕と同じ部類です。
バカミスすれすれだけど、考えさせられるテーマでした。
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