【マンガ】『あひるの空』(32巻)ー他人の時間を奪ってきた人間が、自分だけ有意義な時間を過ごせると思わないでね
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紙の本も読みなよ / A-key-Hit
『あひるの空』日向武史 / 講談社
バスケマンガ。
「黒子のバスケ」のような、超人がスーパープレイを連発する設定ではない。
インターハイを目指しているけれど、NBAやプロが目標なのではない。
それぞれの登場人物の悩み、不安、苦しみ、日常のささいな心理描写にフォーカスし、それを丁寧に追いかけ、バスケという題材を使って昇華させる。
著者自身も悩みながら描いているなと誠実さが伝わってくるマンガです。
この巻の前半では、牧野君という対戦相手チームのキャラクターが掘り下げられます。
彼はバスケ初心者で高校バスケ部に入部。
最初は練習にも参加していたのに、段々と雑用ばかりを言いつけられマネージャー(というかパシリ)として扱われていくことになります。
身長も低く、自分でも実力がないのは自覚していたので最初は従うしかなかった。でも先生に決死の思いで相談(雑用係ではなく自分も練習に参加したい)しても、タイムキーパーを押し付けられてしまう。
やがて絶望し、退部を考え始めます。しかしカバンの中にはバスケ上達のための本が何冊も入っている。自分はただバスケがやりたいだけなのに・・。
辞めたくないけれど、このままここにいてもバスケができない。
ズルズルと部に在籍しているだけの日々。
ある日の練習試合で衝撃的な光景を目にします。
対戦相手に自分と同じくらい低身長なのに試合に出て、次々とスリーポイントシュートを決める選手(主人公・空)がいたのです。
牧野君は、「ああ、自分は身長が低いことを理由に諦めていたんだ」と痛感し、練習させてもらえない部活後にこっそり独り体育館に残って、音がしないように裸足でひたすらディフェンスの練習を繰り返します。(音をさせる練習をしていると教師に咎められたことがあることを匂わせる描写があります。)
身長が低いことは、確かにバスケをやる上ではハンデとなり、部活でもレギュラーとして活躍できる可能性はかなり低い。
しかし、彼の場合はそれ以前の問題。
部内でイジメを受け、日常的にパシリに使われ、部活では練習に参加させてもらえない空気を作られ、雑用を押し付けられ、相談できる教師(顧問)もおらず、同級生もいない(他の同級生はイジメに合って全員辞めた。)
顧問の教師はやる気がなく、イジメも知らぬフリ。雑用を牧野に押し返し、部内のイジメの風潮を強化・助長している。
つまり味方がいなかったということ。
それなのに彼は独りで居残り練習を続ける。
やがて顧問が新任の教師に変わり、イジメを発見される。
ようやく彼に一人、味方ができる。
上級生は一掃され、年月は流れ学年が変わり、彼は下級生を連れて主人公のチームと対戦できるまでになった。
「目標ができたから迷わなかった」
そう彼は言う。
彼が強くいられた理由。イジメに負けなかった理由。
イジメている奴らと同レベルで闘っていなかったからだ。
もっと高い目標、遠い目的地、大きな壁があったからこそ、目の前のクズ共を相手にせずに、ただひたむきに努力できた。
彼の孤独な奮闘ぶりは、涙なしには読めない。
イジメという題材は、かなり難しい。
暗くなりがちで、他にもっと楽しく描きやすい題材は山ほどある。
今の時代、エンターテイメントの中でイジメを扱うのはリスクが大きすぎる。
簡単に批判され、炎上するから。
答えが一つじゃないので多くの読者に納得してもらえないから。
暗いし、人気が出る内容にほとんどなりようがないから。
それでもイジメを取り上げて、さらに感動できるまでのレベルにまで練り上げて、作品として成立させた著者の心意気と手腕に脱帽です。
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